白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
Thu 06 , 14:14:06
2009/08
・サスダテ
・戦国
・死ネタ
「死ぬの?」
敵軍の夜襲。
一人きりで自国を守りきった将は、けれど息絶えようとしていた。
爆煙のにおい。血のにおい。死のにおい。
佐助の優秀な鼻はそれらをかぎ分けて、そして絶望しようとしていた。
「ここを守れても、あんたが死んだら意味がないってわかってる?」
「…」
「たったひとつ門を守ったところで何になるの?門を守れてもあんたが死んだら…」
「わかってる」
佐助の言葉をさえぎり、政宗がかすれた声で言った。
「わかってる。大将が死んだら意味がないって。大将は泥をすすろうとも、どんなに卑怯な手を使おうとも、生き延びなければならないんだって」
「だったら…」
「でもな、それは他国で戦をする場合の話だ。ここは俺の国で、この門の向こうには俺の守るべきものがある。俺の仕事はこの国を、そこに生きる命あるものを守ることだ。それは、政で国を豊かにしてあいつらの生活を守ることだけじゃない。この国を脅かすものがあるのであれば、俺はそれを排除しなければならない。そのために、俺は生きているんだ」
死を色濃くその形相に写しながらも迷いなく言い切る政宗は美しく、神聖ですらあった。
「俺が死んでも小次郎がいる。小次郎がムリなら成実が。伊達の頭領になる。小十郎も綱元も無事なんだ。なんとでもなる。俺の代わりになれるやつはいるんだ。でも、民の代わりも国の代わりもない。唯一で、絶対のものだ。俺がいるから国があるんじゃない。あいつらがいるから国があるんだ。国を、民を守れない大将なんかに用はない。いらないんだ、そんなもの」
俺は、俺の存在価値のために刀をふるったんだ。
守ることができたのなら、ここで死のうともかまわない。心残りは山ほどあるが、それでも、俺は。
血はとまらない。政宗はすでに半分閉じようとしているまぶたを必死に持ち上げ、笑った。
「Good bye、佐助。真田幸村に、謝ってくれないか?決着をつけられなくて悪かった、と」
了承のしるしにわずかに顎を引くと、安心したような表情になり、そのまま目を閉じた。
苛烈な争いの跡の残るこの場所で、そぐわないほどに穏やかな死に顔だった。
その美しい死に顔に見入りながら佐助は政宗を抱きしめた。
生きている間には決して許されなかった抱擁。政宗の血が忍装束を汚す。すでに数多の血にぬれた身である佐助にとって、そんなものは些細なことで、むしろこれが政宗のものであると思えばいとおしくすらあった。
「独眼竜…。……………政宗」
初めて口にした竜の名前に甘く切なく胸が震える。そっと落とした口付けは触れるだけであったが、佐助の胸にあついものを宿した。
冷たい唇。抱きしめた体から少しずつ熱が逃げてゆく。
佐助は政宗の最期のぬくもりを忘れたくない、と思った。
最初で最後の口付けは、血の味がした。
・戦国
・死ネタ
「死ぬの?」
敵軍の夜襲。
一人きりで自国を守りきった将は、けれど息絶えようとしていた。
爆煙のにおい。血のにおい。死のにおい。
佐助の優秀な鼻はそれらをかぎ分けて、そして絶望しようとしていた。
「ここを守れても、あんたが死んだら意味がないってわかってる?」
「…」
「たったひとつ門を守ったところで何になるの?門を守れてもあんたが死んだら…」
「わかってる」
佐助の言葉をさえぎり、政宗がかすれた声で言った。
「わかってる。大将が死んだら意味がないって。大将は泥をすすろうとも、どんなに卑怯な手を使おうとも、生き延びなければならないんだって」
「だったら…」
「でもな、それは他国で戦をする場合の話だ。ここは俺の国で、この門の向こうには俺の守るべきものがある。俺の仕事はこの国を、そこに生きる命あるものを守ることだ。それは、政で国を豊かにしてあいつらの生活を守ることだけじゃない。この国を脅かすものがあるのであれば、俺はそれを排除しなければならない。そのために、俺は生きているんだ」
死を色濃くその形相に写しながらも迷いなく言い切る政宗は美しく、神聖ですらあった。
「俺が死んでも小次郎がいる。小次郎がムリなら成実が。伊達の頭領になる。小十郎も綱元も無事なんだ。なんとでもなる。俺の代わりになれるやつはいるんだ。でも、民の代わりも国の代わりもない。唯一で、絶対のものだ。俺がいるから国があるんじゃない。あいつらがいるから国があるんだ。国を、民を守れない大将なんかに用はない。いらないんだ、そんなもの」
俺は、俺の存在価値のために刀をふるったんだ。
守ることができたのなら、ここで死のうともかまわない。心残りは山ほどあるが、それでも、俺は。
血はとまらない。政宗はすでに半分閉じようとしているまぶたを必死に持ち上げ、笑った。
「Good bye、佐助。真田幸村に、謝ってくれないか?決着をつけられなくて悪かった、と」
了承のしるしにわずかに顎を引くと、安心したような表情になり、そのまま目を閉じた。
苛烈な争いの跡の残るこの場所で、そぐわないほどに穏やかな死に顔だった。
その美しい死に顔に見入りながら佐助は政宗を抱きしめた。
生きている間には決して許されなかった抱擁。政宗の血が忍装束を汚す。すでに数多の血にぬれた身である佐助にとって、そんなものは些細なことで、むしろこれが政宗のものであると思えばいとおしくすらあった。
「独眼竜…。……………政宗」
初めて口にした竜の名前に甘く切なく胸が震える。そっと落とした口付けは触れるだけであったが、佐助の胸にあついものを宿した。
冷たい唇。抱きしめた体から少しずつ熱が逃げてゆく。
佐助は政宗の最期のぬくもりを忘れたくない、と思った。
最初で最後の口付けは、血の味がした。
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