白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
Fri 11 , 00:17:06
2008/07
(♀伊達ですのでご注意を)
「真田幸村!いざ、尋常に勝負!!」
袴姿で竹刀を手にきらきらと目を輝かせて迫ってくる少女―伊達政宗を見て、幸村は泣きたくなった。
「ま、政宗殿、某少々体調が…」
「嘘つくな!さっきまで慶次相手に打ち合ってたじゃねえか!」
「いや、それは…」
「俺だっておまえとやりたいのに、どうして慶次はよくて俺はだめなんだよ!」
すねたように唇を尖らせながら幸村を上目遣い(身長差があるため自然とそうなる)でにらみつける政宗に顔を赤くしながらしどろもどろに幸村は言い訳をする。
「しかし、今は休憩時間中で…」
「休憩時間だから誘ってるんだよ!」
男子剣道部と女子剣道部は仲がいいものの、流石に練習メニューは別のため、幸村と政宗は同じ武道場内にいても練習中に打ち合うことはない。
「休憩時間にはちゃんと身体を休めなければ」
「でも、…休憩時間しかできねぇじゃん。っつーか、俺はあんたとやりたいのに、あんたは俺とやりたくねえのかよ?」
「政宗殿…」
幸村にも、政宗にも、前世の記憶がある。
前世の最期の戦いで、勝ったのは幸村だった。鳥になりたい、と言い残して微笑みながら逝ってしまった人に、幸村は泣いた。政宗は男で、敵国の大将だったけれど、ずっと、想っていたのだ。この美しい人がいとしかった。破天荒なくせに繊細でやさしいこの人が、好きだった。
ともに、生きてゆきたかったのだ。
隣で笑いあう未来が欲しかった。
だから、現世でもう一度めぐり合えたとき、信じてもいない神に心底感謝したのだ。その上、生まれ変わった政宗は女になっていた。たとえ男であろうとも政宗をいとおしく想う気持ちは変わらないが、戦乱の世とは違い、現代では同性愛というのは受け入れ難い社会だ。障害など少ないに越したことはない。
かくして、男同士という壁も敵同士という壁もなく、対等な立場で向き合う権利を幸村は手に入れたのだ。
しかし、最大の障害はそういったものではなかった。
『真田幸村、久しぶりだな』
『政宗殿…!お会いしとうござった…』
『Ha!俺も会いたかったぜ?真田ァ』
『政宗殿…』
『いざ、勝負!今度こそ、負けねえからな!!』
満面の笑みで宣戦布告をされてしまった。
それからというもの、顔をあわせるたびに政宗は勝負しろ、と迫ってくる。幸村にしてみればたまったものじゃない。
もう二度と傷つけないと誓ったのだ。
泣きながら抱きしめた体はだんだん冷たくなっていって、還らぬぬくもりにどれほど悔いたことか。
いや、それでも戦乱の御世ではないこの時代なら、傷つけることなく戦うこともできるかもしれない。
しかし、今の政宗は女なのだ。
抱きしめれば折れてしまいそうなほどに細い肢体。手首なんて、つかんでも指があまるほどだ。身長だって、ほとんど同じだったあのころとは違い頭ひとつ分近く幸村のほうが高い。
生まれ変わっても流石というべきか、剣術の腕は女子部でもトップではあるが、幸村とて男子部ではトップ。男女の力の差や体格差を考えてみれば、どう考えても政宗が勝てるわけがないのだ。
けれども、政宗はかつての好敵手が目の前にいる、という事実に興奮して今の己が女であるということをすっかり失念して勝負をしろと目を輝かせて迫ってくるのだ。
まさか、幸村がそんな政宗を見て抱きしめてしまいたいなどと考えているなど、夢にも思わないだろう。
そう、そうなのだ。
幸村は、政宗に“異性”として意識されていないのだ。
泣きたい現実である。
「男子、休憩終わりだ!」
「女子も、休憩終わりー」
武道場に響く男子、女子それぞれの部長の声に幸村は安堵のため息をつき、政宗は悔しそうに舌打ちをする。
「今度こそ、俺の相手しろよ!」
「はは…。政宗殿、今日の帰りはどうしますか?」
「んー、マック行きたい」
「わかりました。ではまた後ほど」
「ん」
二人は一緒に帰っているのだ。
帰りが遅くなるため一人では危ない、とかなんとか理由をつけて。
ちなみに、朝も一緒に朝練にきている。
最寄り駅が近くて本当に良かった、と思う。
政宗がおとなしく幸村と一緒に登下校する理由のひとつとして、一人で電車に乗っているとよく痴漢にあうから、というものがある。政宗ならば痴漢を撃退できなくもないだろうが、恐いものは恐いだろう。幸村が一緒にいれば痴漢も手を出してこないし、ほかの男どもへのいい牽制にもなる。
(いつになったらわかってくださるのであろうか…)
後半の練習メニューをこなしながらこっそり政宗を目で追い、幸村ははぁと深いため息をつくのであった。
「真田幸村!いざ、尋常に勝負!!」
袴姿で竹刀を手にきらきらと目を輝かせて迫ってくる少女―伊達政宗を見て、幸村は泣きたくなった。
「ま、政宗殿、某少々体調が…」
「嘘つくな!さっきまで慶次相手に打ち合ってたじゃねえか!」
「いや、それは…」
「俺だっておまえとやりたいのに、どうして慶次はよくて俺はだめなんだよ!」
すねたように唇を尖らせながら幸村を上目遣い(身長差があるため自然とそうなる)でにらみつける政宗に顔を赤くしながらしどろもどろに幸村は言い訳をする。
「しかし、今は休憩時間中で…」
「休憩時間だから誘ってるんだよ!」
男子剣道部と女子剣道部は仲がいいものの、流石に練習メニューは別のため、幸村と政宗は同じ武道場内にいても練習中に打ち合うことはない。
「休憩時間にはちゃんと身体を休めなければ」
「でも、…休憩時間しかできねぇじゃん。っつーか、俺はあんたとやりたいのに、あんたは俺とやりたくねえのかよ?」
「政宗殿…」
幸村にも、政宗にも、前世の記憶がある。
前世の最期の戦いで、勝ったのは幸村だった。鳥になりたい、と言い残して微笑みながら逝ってしまった人に、幸村は泣いた。政宗は男で、敵国の大将だったけれど、ずっと、想っていたのだ。この美しい人がいとしかった。破天荒なくせに繊細でやさしいこの人が、好きだった。
ともに、生きてゆきたかったのだ。
隣で笑いあう未来が欲しかった。
だから、現世でもう一度めぐり合えたとき、信じてもいない神に心底感謝したのだ。その上、生まれ変わった政宗は女になっていた。たとえ男であろうとも政宗をいとおしく想う気持ちは変わらないが、戦乱の世とは違い、現代では同性愛というのは受け入れ難い社会だ。障害など少ないに越したことはない。
かくして、男同士という壁も敵同士という壁もなく、対等な立場で向き合う権利を幸村は手に入れたのだ。
しかし、最大の障害はそういったものではなかった。
『真田幸村、久しぶりだな』
『政宗殿…!お会いしとうござった…』
『Ha!俺も会いたかったぜ?真田ァ』
『政宗殿…』
『いざ、勝負!今度こそ、負けねえからな!!』
満面の笑みで宣戦布告をされてしまった。
それからというもの、顔をあわせるたびに政宗は勝負しろ、と迫ってくる。幸村にしてみればたまったものじゃない。
もう二度と傷つけないと誓ったのだ。
泣きながら抱きしめた体はだんだん冷たくなっていって、還らぬぬくもりにどれほど悔いたことか。
いや、それでも戦乱の御世ではないこの時代なら、傷つけることなく戦うこともできるかもしれない。
しかし、今の政宗は女なのだ。
抱きしめれば折れてしまいそうなほどに細い肢体。手首なんて、つかんでも指があまるほどだ。身長だって、ほとんど同じだったあのころとは違い頭ひとつ分近く幸村のほうが高い。
生まれ変わっても流石というべきか、剣術の腕は女子部でもトップではあるが、幸村とて男子部ではトップ。男女の力の差や体格差を考えてみれば、どう考えても政宗が勝てるわけがないのだ。
けれども、政宗はかつての好敵手が目の前にいる、という事実に興奮して今の己が女であるということをすっかり失念して勝負をしろと目を輝かせて迫ってくるのだ。
まさか、幸村がそんな政宗を見て抱きしめてしまいたいなどと考えているなど、夢にも思わないだろう。
そう、そうなのだ。
幸村は、政宗に“異性”として意識されていないのだ。
泣きたい現実である。
「男子、休憩終わりだ!」
「女子も、休憩終わりー」
武道場に響く男子、女子それぞれの部長の声に幸村は安堵のため息をつき、政宗は悔しそうに舌打ちをする。
「今度こそ、俺の相手しろよ!」
「はは…。政宗殿、今日の帰りはどうしますか?」
「んー、マック行きたい」
「わかりました。ではまた後ほど」
「ん」
二人は一緒に帰っているのだ。
帰りが遅くなるため一人では危ない、とかなんとか理由をつけて。
ちなみに、朝も一緒に朝練にきている。
最寄り駅が近くて本当に良かった、と思う。
政宗がおとなしく幸村と一緒に登下校する理由のひとつとして、一人で電車に乗っているとよく痴漢にあうから、というものがある。政宗ならば痴漢を撃退できなくもないだろうが、恐いものは恐いだろう。幸村が一緒にいれば痴漢も手を出してこないし、ほかの男どもへのいい牽制にもなる。
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