白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
Tue 29 , 22:41:49
2008/04
俺はずっとその人に触れたかったのだと、その時ようやく気がついた。
戦場において誰よりも美しく俺をひきつけるその人にずっと焦がれていた。刃を交わせば心ごと体は熱くたぎり、この時が永久に続けばと祈り、平時においては…己でさえ気付かぬままに彼の人を思い続ける。
一国を武人としては細いその双肩に背負い、その重みに惑いながらも尚真っ直ぐに笑い続けるその人は、俺の知る誰よりも美しかった。
多くのものに愛され、そして多くのものを愛する彼が自分だけをその隻眼に映し、そしてひどく楽しそうに笑うあの瞬間は掛け替えのないものだった。
いつしか、戦場での逢瀬を待ちわびるのは刃を交わすためばかりではなくなっていた。
だから、あの人がずっと、頑是ない幼子のように愛を求めて泣いているのだと気付いた時、おそらくは本人でさえ意図せずに伸ばされていたであろう手をためらいなくとった。途端に怯えて竦む彼がひどく愛しかった。
「―お慕いしております」
自分でも驚くほどするりとその言葉は零れた。
小刻みに震える唇が。
忙しなく瞬く隻眼が。
頼りなく彷徨う両腕が。
どうしようもないほどに愛しくて、俺はただその美しく儚い人を抱き締める事しかできなかった。
この腕の中に閉じ込めて二度と放したくないと願った。
「どうか、お側に…」
ささやく声が低くかすれ、それにすらびくりと反応するその細い肢体。ふうわりと甘やかな香が鼻をかすめる。
「政宗殿」
天上の竜を我がものにできたらそれはどれほど幸福であろう。否、それがかなわずとも構わない。ただこの愛しい竜がその身を我が元で休めてくれるのなら。
「ゆき、むら…」
呆然とした声で呼ばれた我が名に思わず笑みを浮かべる。
「はい」
手を伸ばす。
白い頬に触れ、彼が何か言うより早く口付けた。
「…っ」
愛しい、片目の竜。
その心が凍て付かぬよう守りたい。我が紅蓮の炎で温めたい。
一人ではないと、ここにいると、何度でも教えてやりたい。
愛していると、伝えたい。
「怯えないでくだされ」
「怯えてなんか…」
「怖がらないでくだされ。某は、決してそなたを傷つけませぬ故」
「…」
長い沈黙があった。
気まずいとは思わない。彼は俺の手を拒まなかったし抱き締めた箇所から伝わる熱は心地よかった。微かに早い鼓動が聞こえる気がするのも嬉しい。
「…」
独眼竜の、戦場では決して迷わない両腕がためらいながら背に伸びる。
ぎゅ、と。
背で着物を握り締める仕種は抱き返すと言うよりもしがみつくと言った方がよいもので。
それが、余計に愛しかった。
戦場において誰よりも美しく俺をひきつけるその人にずっと焦がれていた。刃を交わせば心ごと体は熱くたぎり、この時が永久に続けばと祈り、平時においては…己でさえ気付かぬままに彼の人を思い続ける。
一国を武人としては細いその双肩に背負い、その重みに惑いながらも尚真っ直ぐに笑い続けるその人は、俺の知る誰よりも美しかった。
多くのものに愛され、そして多くのものを愛する彼が自分だけをその隻眼に映し、そしてひどく楽しそうに笑うあの瞬間は掛け替えのないものだった。
いつしか、戦場での逢瀬を待ちわびるのは刃を交わすためばかりではなくなっていた。
だから、あの人がずっと、頑是ない幼子のように愛を求めて泣いているのだと気付いた時、おそらくは本人でさえ意図せずに伸ばされていたであろう手をためらいなくとった。途端に怯えて竦む彼がひどく愛しかった。
「―お慕いしております」
自分でも驚くほどするりとその言葉は零れた。
小刻みに震える唇が。
忙しなく瞬く隻眼が。
頼りなく彷徨う両腕が。
どうしようもないほどに愛しくて、俺はただその美しく儚い人を抱き締める事しかできなかった。
この腕の中に閉じ込めて二度と放したくないと願った。
「どうか、お側に…」
ささやく声が低くかすれ、それにすらびくりと反応するその細い肢体。ふうわりと甘やかな香が鼻をかすめる。
「政宗殿」
天上の竜を我がものにできたらそれはどれほど幸福であろう。否、それがかなわずとも構わない。ただこの愛しい竜がその身を我が元で休めてくれるのなら。
「ゆき、むら…」
呆然とした声で呼ばれた我が名に思わず笑みを浮かべる。
「はい」
手を伸ばす。
白い頬に触れ、彼が何か言うより早く口付けた。
「…っ」
愛しい、片目の竜。
その心が凍て付かぬよう守りたい。我が紅蓮の炎で温めたい。
一人ではないと、ここにいると、何度でも教えてやりたい。
愛していると、伝えたい。
「怯えないでくだされ」
「怯えてなんか…」
「怖がらないでくだされ。某は、決してそなたを傷つけませぬ故」
「…」
長い沈黙があった。
気まずいとは思わない。彼は俺の手を拒まなかったし抱き締めた箇所から伝わる熱は心地よかった。微かに早い鼓動が聞こえる気がするのも嬉しい。
「…」
独眼竜の、戦場では決して迷わない両腕がためらいながら背に伸びる。
ぎゅ、と。
背で着物を握り締める仕種は抱き返すと言うよりもしがみつくと言った方がよいもので。
それが、余計に愛しかった。
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