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白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
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Sun 01 , 16:02:18
2008/06
この蛍があんたの魂なのだとすれば、どこへ飛んでいくのだろうか。



もの思へば 沢の蛍も わが身より あくがれ出づる 魂かとぞ見る
(和泉式部)



任務の帰り、深い森の奥の小さな川を囲むようにして飛ぶ美しい夏の虫に、思わずそんなことを考えてしまった。そんなロマンティックな性質ではないというのに、そう考えてしまったのは未だにあんたのことを思い切れていないからなのだろう。

そっと近づき、恐る恐る手を伸ばすと当然のようにあたりの蛍は逃げていく。

「もの思へば…」

古い和歌を口ずさむ。
この蛍が魂なのだとしたら。
俺の魂をかたどった蛍は間違いなくあんたのところへ飛んでいくだろう。
だが、あんたの魂は?
どこへ行くのだろうか。
俺のところか、紅サンのところか、それとも違う誰かのところか。

会いたい、と。
好きだ、と。
強く、今でも思う。

あれから3年経った今でも変わらない、大切な無二の存在。
恋と呼ぶほど甘くなく、愛というほど優しくないこの感情は、はっきりとした形をとることもないままあの男と結びついて、ひどく歪な形のまま固まってしまった。

「あ…」

伸ばされた手に驚き逃げていた蛍のうち一匹が。
すぅっと俺の指先を囲むように光り、飛んだ。

「アスマ…?」

応えるように微かに光る小さな命。

(なあ、あんたは今どこにいるんだ?)

その一匹に誘発されたように他の蛍たちも次々と集まっては光を灯す。
夢のような光景だ、と凪いだ心のうちでそっと思う。
この美しい光景は、夢のようで触れることができない。
指の一本も、これ以上に動かせない。
少しでも身じろいでしまえば壊れてしまうのではないか。

「なあ、…ありがとな、おまえら」

口の中で小さく呟くと、彼らはまた応えるように光った後に、ゆっくりと離れていった。
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