白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
Mon 04 , 14:53:23
2013/02
TOVで、ユーリとおっさんのお話。話題は、故団長について。私の中ではアレ→←シュヴァ(レイ)←ユーリがこのジャンルの大前提です。
「あんたは、アレクセイを憎んでいないのか?」
ふとした疑問だった。望まぬ生を与えられ、道具のように扱われたこの男の十年間をユーリはよく知らないが、それでも、その十年が決して楽しいものではなかったであろうことは、容易に想像がついたからだ。
それだというのに、アレクセイのことを決して悪くは言おうとしないレイヴンに対し、これは当然の疑問であったと思う。だが、その言葉にうなずくかと思えたレイヴンは、虚を突かれたようにひどく驚いた表情を見せた。
「…おっさん?」
「え、ああ。…ああ、そう、だな。…ああ」
要領を得ない言葉に首をかしげる。しかも、ひょうひょうとした道化の皮がはがれかけていることにも驚いた。いつだって“レイヴン”であり続けるこの男の、こんなにも動揺した姿を見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや…ああ、違う。そうじゃなくって…なんというか…その、…驚いた」
まだ気持ちが落ち着かないらしく、男はいつの間にか“シュヴァーン”になってしまっている。それにすら気づかないことに、ユーリは困惑した。それと同時に、どうやら、この男は“シュヴァーン”の方が素らしい、ということにも驚いた。ユーリが知るのは“レイヴン”の顔ばかりなので、こうして“シュヴァーン”と話すのは違和感ばかりでどうにも居心地が悪い。あのバクティオンで、彼の心臓を切りつけた記憶がそう感じさせるのかもしれない。
「何にそんなに驚いたんだよ」
「あの人を…」
そう言って、居心地悪そうに身動いだレイヴン、いや、シュヴァーンは、言うかどうか逡巡を見せたが、しかし自分でも整理の付かない感情をはき出すように訥々と言った。
「殺したいほど憎んだこともあったのに、それを忘れていたことに、驚いた」
どう反応すればいいのか、わからなかった。ユーリにとってアレクセイは紛れもなく“悪”であり、シュヴァーンやエステルにしたことをユーリは決して許せないし、許したいとも思わない。そしてシュヴァーンにしても、彼がこれまでに受けた仕打ちを考えれば、憎んでしかるべき相手であるのだと、当然のように思っていた。そして実際に、シュヴァーンは今、“殺したいほど憎んでいた”と口にした。そんなにも激しい憎悪の感情を、果たして忘れることができるものなのだろうか。
「…おかしな話だ。あんなにも憎んでいたのに…殺したいとまで…。それなのに、今となっては…ただ、」
ふ、と言葉を切ったっシュヴァーンは何か、とても美しい、神性を秘めたものを見つめるかのような瞳で囁くように言った。
「あの人のことが、とても…大切で、いとおしい」
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