白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
Fri 10 , 01:36:04
2007/08
「望みはただそれだけ」
そう言った彼の目はとても美しくて、受け入れることはできないと分かっていたのに拒むこともできませんでした―
All I Ask Of You
彼の歌声はいつも優しく私を包んでくれた。彼の歌声が、何より好きだった。
「Angel of music hiding guarden…」
いつもそばにいて見守ってくれた彼の手を離したのは私だ。だから、私は泣いてはいけない。
「クリスティーヌ、それは違う。彼のために泣けばいい。彼は君の涙に癒され、許しを見ることができるだろう」
ラウルは、優しい。
優しい愛で私を包み込んでくれる。すべてを私に与えてくれるのに私からは何も奪わない。その優しさに私は泣きたくなる。彼を、ラウルを心から愛しているのにそれと同時にあの人を強く想う私がいる。彼が私に与えてくれるものを私は返してあげられない。
「Sing once again with me…」
ラウルのささやく愛の言葉よりもはるかに強くあの人の歌は私を揺さぶる。何度も心に響いて忘れられない。
胸が、痛い。
「That's all I ask of you…」
あの声の切ない響きを忘れられない。
あの日のことを。
あの人の瞳の色、手の暖かさ、涙の悲しみ、すべて忘れない。
あの時あの人の手を離したのは私。
ラウルとの幸福な日々を得る代わりに彼を失った。
後悔をしない日はないけれど何度あの日に戻れても私は彼を選んでしまうでしょう。
ラウルの愛に包まれた日々の中私はあの人を想い、あの人の手を離したことを後悔しながら彼を愛し、きっと幸せに生きて行く。
That's All I Ask Of …
きっと、それが私たちの選んだ幸福だったのでしょう―
そう言った彼の目はとても美しくて、受け入れることはできないと分かっていたのに拒むこともできませんでした―
All I Ask Of You
彼の歌声はいつも優しく私を包んでくれた。彼の歌声が、何より好きだった。
「Angel of music hiding guarden…」
いつもそばにいて見守ってくれた彼の手を離したのは私だ。だから、私は泣いてはいけない。
「クリスティーヌ、それは違う。彼のために泣けばいい。彼は君の涙に癒され、許しを見ることができるだろう」
ラウルは、優しい。
優しい愛で私を包み込んでくれる。すべてを私に与えてくれるのに私からは何も奪わない。その優しさに私は泣きたくなる。彼を、ラウルを心から愛しているのにそれと同時にあの人を強く想う私がいる。彼が私に与えてくれるものを私は返してあげられない。
「Sing once again with me…」
ラウルのささやく愛の言葉よりもはるかに強くあの人の歌は私を揺さぶる。何度も心に響いて忘れられない。
胸が、痛い。
「That's all I ask of you…」
あの声の切ない響きを忘れられない。
あの日のことを。
あの人の瞳の色、手の暖かさ、涙の悲しみ、すべて忘れない。
あの時あの人の手を離したのは私。
ラウルとの幸福な日々を得る代わりに彼を失った。
後悔をしない日はないけれど何度あの日に戻れても私は彼を選んでしまうでしょう。
ラウルの愛に包まれた日々の中私はあの人を想い、あの人の手を離したことを後悔しながら彼を愛し、きっと幸せに生きて行く。
That's All I Ask Of …
きっと、それが私たちの選んだ幸福だったのでしょう―
PR
Tue 31 , 18:30:38
2007/07
恋なんてものは、落とし穴のようにある日突然落ちるものなのだろうか。
それとも、坂道を下っていくように気がつけば落ちているものなのだろうか。
わからないけれど、それでもオレたちはその日、初めて互いを異性として認識した。
「危ないっ」
と言って、危機から庇うように抱き寄せたら、その身体は思っていたよりもずっと細くて、腕の中に納まってしまうほどだった。
任務中であったからすぐに腕を放して、その一瞬の驚きのことなんてすっかり忘れてしまったのだが。
今、どうして自分は彼女を抱きしめているのだろう。
否、どうして彼女は自分に抱きついてきたのだろう。
別に、今更照れるような間柄ではないし(何せ、ガキのころには一緒に風呂に入っていた記憶まである)かまわないといえばかまわないのだが、ほかの誰かに見られたら外聞が悪いのではないだろうか。
「あ、やっぱり」
「…何が」
「シカマル、大きい」
「ああ?」
「だって、さっき…庇ってくれたときにね、なーんか、シカマルが大きく感じたの。で、任務中で危ないときだったから頼もしく感じたのか、実際にシカマルのほうが大きいのか、確かめてみたかったんだけど…」
「で?」
「やっぱり、シカマルも男の子なんだね」
「おまえはオレをいったいなんだと…」
いのは、少し悔しそうにオレを見上げる。そういえば、身長も随分差ができている。いののほうが背が高かった時期もあったのに。なんとも色気のない理由ではあるが、抱き合っているために普段は目に付かないようなところが見える。
(首筋、細い。色、白い。うなじが…。あ、なんかいいにおいするし)
「おまえも、そういえば女なんだよな」
「何よ、それ。失礼ね」
「おまえもさっきおんなじ様なこと言ってただろうが」
「あたしはいいの」
「どういう理屈だ」
「女の子の理屈よ」
「わけわかんねえし」
中身なんて、ガキのころから大して変わんないのに。
オレたちの距離だって、ガキのころから大して変わんないのに。
「あーーー!!!!」
「んだよ…ナルトか」
「あ、サクラもいる」
うるさい叫び声のしたほうへ顔を向ければ、見慣れた金髪が目に入った。その隣にはサクラもいる。
「な、な、な、な」
「“な”?」
「なんで、あんたたち抱き合ってんのよーーー!!!!!」
「へ?」
「…」
「…」
別に、他意はなかったのだけれど。
それでも、確かにこの格好は端から見れば“そういうこと”なわけで。
「「!」」
急いで、離れた。
「べ、別に、シカマルとそういうことってわけじゃなくって、単に、シカマルが大きくなったな、って!」
「あんたたち、いつもそうやって比べてるわけ?」
「別に、いつもやってるわけじゃなくって!今日はたまたま…」
「ふーん?」
「あー…本当にびっくりしたってばよ」
「なんで」
「シカマルといのが付き合ってるんだと思ったってば」
「は?」
「そうそう、そうとしか見えなかったわよ。こんなところで二人きりでしっかり抱き合って…」
「…誤解を招くような言い方をするな」
「だって、そうとしかいえないわよ」
「はぁ…」
「でもね、なんか…意外にお似合いだったわよ?」
「…」
結局、その後4人で団子を食ってから帰ったわけなんだが。
ナルトとサクラの発言で、ようやくオレたちは互いが男と女であると言うことに気づいた。
つまり、恋愛対象になり得る存在である、ということ。
茶屋でのいのの態度は明らかに普段とは違っていた。ちょっと手が触れただけでも、大げさなくらいにばっと手を引く。なるべく目をあわせようとしない。飛んできた葉っぱが髪についてたからとってやったら、一気に顔を真っ赤にする。
そんな反応は新鮮で面白かったんだけれども。
「あれ、シカマル、なんか顔赤いってばよ」
オレも人のことをとやかく言えるような状態ではなかったらしい。
さて、これから先、また今までのように性別の関係ない幼馴染として付き合っていくのか、それとも今日気づいてしまった男と女という性別の違いを意識した付き合いになるのか、はたまた離れていってしまうのか。
色々考えるのはめんどくさいから、とりあえずは相手の出方に任せようと思う。
それとも、坂道を下っていくように気がつけば落ちているものなのだろうか。
わからないけれど、それでもオレたちはその日、初めて互いを異性として認識した。
「危ないっ」
と言って、危機から庇うように抱き寄せたら、その身体は思っていたよりもずっと細くて、腕の中に納まってしまうほどだった。
任務中であったからすぐに腕を放して、その一瞬の驚きのことなんてすっかり忘れてしまったのだが。
今、どうして自分は彼女を抱きしめているのだろう。
否、どうして彼女は自分に抱きついてきたのだろう。
別に、今更照れるような間柄ではないし(何せ、ガキのころには一緒に風呂に入っていた記憶まである)かまわないといえばかまわないのだが、ほかの誰かに見られたら外聞が悪いのではないだろうか。
「あ、やっぱり」
「…何が」
「シカマル、大きい」
「ああ?」
「だって、さっき…庇ってくれたときにね、なーんか、シカマルが大きく感じたの。で、任務中で危ないときだったから頼もしく感じたのか、実際にシカマルのほうが大きいのか、確かめてみたかったんだけど…」
「で?」
「やっぱり、シカマルも男の子なんだね」
「おまえはオレをいったいなんだと…」
いのは、少し悔しそうにオレを見上げる。そういえば、身長も随分差ができている。いののほうが背が高かった時期もあったのに。なんとも色気のない理由ではあるが、抱き合っているために普段は目に付かないようなところが見える。
(首筋、細い。色、白い。うなじが…。あ、なんかいいにおいするし)
「おまえも、そういえば女なんだよな」
「何よ、それ。失礼ね」
「おまえもさっきおんなじ様なこと言ってただろうが」
「あたしはいいの」
「どういう理屈だ」
「女の子の理屈よ」
「わけわかんねえし」
中身なんて、ガキのころから大して変わんないのに。
オレたちの距離だって、ガキのころから大して変わんないのに。
「あーーー!!!!」
「んだよ…ナルトか」
「あ、サクラもいる」
うるさい叫び声のしたほうへ顔を向ければ、見慣れた金髪が目に入った。その隣にはサクラもいる。
「な、な、な、な」
「“な”?」
「なんで、あんたたち抱き合ってんのよーーー!!!!!」
「へ?」
「…」
「…」
別に、他意はなかったのだけれど。
それでも、確かにこの格好は端から見れば“そういうこと”なわけで。
「「!」」
急いで、離れた。
「べ、別に、シカマルとそういうことってわけじゃなくって、単に、シカマルが大きくなったな、って!」
「あんたたち、いつもそうやって比べてるわけ?」
「別に、いつもやってるわけじゃなくって!今日はたまたま…」
「ふーん?」
「あー…本当にびっくりしたってばよ」
「なんで」
「シカマルといのが付き合ってるんだと思ったってば」
「は?」
「そうそう、そうとしか見えなかったわよ。こんなところで二人きりでしっかり抱き合って…」
「…誤解を招くような言い方をするな」
「だって、そうとしかいえないわよ」
「はぁ…」
「でもね、なんか…意外にお似合いだったわよ?」
「…」
結局、その後4人で団子を食ってから帰ったわけなんだが。
ナルトとサクラの発言で、ようやくオレたちは互いが男と女であると言うことに気づいた。
つまり、恋愛対象になり得る存在である、ということ。
茶屋でのいのの態度は明らかに普段とは違っていた。ちょっと手が触れただけでも、大げさなくらいにばっと手を引く。なるべく目をあわせようとしない。飛んできた葉っぱが髪についてたからとってやったら、一気に顔を真っ赤にする。
そんな反応は新鮮で面白かったんだけれども。
「あれ、シカマル、なんか顔赤いってばよ」
オレも人のことをとやかく言えるような状態ではなかったらしい。
さて、これから先、また今までのように性別の関係ない幼馴染として付き合っていくのか、それとも今日気づいてしまった男と女という性別の違いを意識した付き合いになるのか、はたまた離れていってしまうのか。
色々考えるのはめんどくさいから、とりあえずは相手の出方に任せようと思う。
Fri 20 , 22:16:16
2007/07
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんが山へ芝刈りに。おばあさんも山に行きました。
おじいさんは、枯れ木に向かって灰を投げつけます。あ、芝刈りじゃなかったのか、というつっこみはなしの方向でお願いします。
そんなおじいさんをうっとりと見ていたおばあさんは、ふと一本の木が光っているのを見つけます。
「おじいさん、おじいさん、この木が光っておりますよ」
「おお、本当じゃ。ためしに折ってみようか」
ボキッ
年寄りとも思えぬ怪力で折った枝の中には、それはそれはかわいらしい女の子。
「あらあら、かわいらしいこと。どこの子かしら?」
その少女が大変気に入ったおばあさんは、優しく話しかけます。
「ねえ、そこのお嬢ちゃん。どうしてこんなところにいるのだい?親御さんは?」
少女は首を横に振るばかり。しめた、と内心思ったおばあさんは、優しく微笑んで言いました。
「飴あげるから、ついておいで」
「…」
少女はちょっと考えてから立ち上がり、おばあさんの手を握りました。
言っておきますが、これは誘拐ではありません。少女が、自発的におばあさんについてきたのです。…もう一度言いますが、誘拐ではありません。誰が何と言おうとも。むしろ、人命救助です。山の中に置き去りにされた少女を無断で連れ去った。立派な人命救助です。誘拐であるはずが、ありません。
時は流れ、かぐや姫と名づけられた少女はすくすくと美しく賢く育ちました。今では、おじいさんの手伝いをして芝刈りをしたり、穴の開いた屋根を修繕したり、熊と相撲をとったりもします。そうそう、とても優しくて正義感の強い子でもありましたので、雪の積もったお地蔵さんをかわいそうに思い、傘をかぶせてあげたこともありました。
そんなある日、かぐや姫は散歩に出た海岸で、いじめられている亀を助けます。
「ありがとうございます、かぐや姫さま」
「なあに、どうしてあなたは私の名前を知っているの?私はそんなに有名?」
「はい、姫さまのご高名は、遠くエーゲ海の底の竜宮城にまで届いております。わが国の猛者どもが、ぜひとも姫と相撲を…ゲフンゲフン、違う違う、うわさに聞く姫の美しさに思いを寄せております」
「まぁ…」
「どうでしょうか、姫さま。助けていただいたお礼に、あなた様を竜宮城にご招待したいと思います。我が主、乙姫様もきっとそれをお望みでございましょう」
「竜宮城は…遠いのかしら?日帰りで行ける?」
「なぜですか?」
「私の帰りが遅いと、私を育ててくださった優しいおじいさんとおばあさんがとても心配するでしょう」
「それなら大丈夫ですよ。海の底と地上とでは、時間の流れが違うのです。問題はありませんよ」
多分、と呟いた言葉は、小さすぎてかぐや姫の耳には届きませんでした。
助けた亀に連れられてやって来た竜宮城で、かぐや姫と乙姫は運命的な出会いをし、親友となりました。
鯛や平目の舞い踊り、ウツボやマグロとの相撲取り。
そして何より、乙姫との空手の特訓に、面白おかしく日々は過ぎていきます。
「ああ、楽しい」
「そう、それはよかったわ。…ねえ、かぐや」
「なあに?乙ちゃん」
「あなた、ずっとここでくらしましょうよ」
「ええ?」
「だって、あなたがいると毎日がとても楽しいんですもの。ね、あなたはそうじゃないの?」
「それは…。私も、とても楽しいわ。でも…」
「かぐや?」
「ねえ、お願い。時間を頂戴。少し…考えさせて」
「…わかったわ」
かぐや姫は考え込んでしまいました。
こんなに長居するつもりはなかった。きっと、おじいさんとおばあさんが私を心配している。早く帰って、安心させてあげなくては…。ああ、でもここでの生活は楽しい。それに…あちらへ帰っても、どうせすぐに月の使者が私を拉致しに…じゃなかった、連れ去りに、いや…ええっと…、そう、迎えに来るわ。そんなの、イヤだわ。せっかくあのジジイ…じゃなくって、天帝のところから逃げ出したっていうのに連れ戻されるなんて、絶対にイヤ。そんなことになれば、おじいさんとおばあさんだけではなく、乙ちゃんとも会えなくなってしまう…。今なら、あいつ等は私がここにいることに気づいていない。それに…気づいたところで、海の中は治外法権。私をムリにさらうことはできやしない。
だったら…。
1時間23分じっくり考えて、かぐや姫の決意は固まりました。
おじいさん、おばあさん、ごめんなさい。かぐやは、乙ちゃんと竜宮城で幸せになります。…あら、なんだか結婚の挨拶みたい?
「かぐや、心は決まった?」
「ええ、乙ちゃん。私…」
「…」
「乙ちゃんと、ここで暮らしていくわ」
「本当!?かぐや!!」
「ええ、よく考えたんだけど…ここで乙ちゃんと一緒にいるのが、私の一番の幸せのような気がするの」
「嬉しい!絶対に幸せにしてみせるからね、かぐや!!」
「ええ、こっちこそ。不束者ですが、どうぞ末永く…」
「「あれ?」」
こうして、かぐや姫は育ててくれたおじいさんとおばあさんのもとにも月の世界にも帰ることなく、今でも幸せに乙姫とともにエーゲ海の底の竜宮城で暮らしています。
そうそう、玉手箱がどうなったかって?
あの日、乙姫は、かぐや姫が地上に帰ると言ったら渡すつもりで用意をしていましたが、かぐや姫は地上には帰りませんでした。だから、今でも玉手箱は乙姫の手元にあります。ただ…中には、かぐや姫の“時間”ではなく、マスカラや口紅…二人の化粧品がはいった小物入れになっているとのうわさです。真偽のほどは定かではありませんが、ある有力な筋からの情報です、とだけ言っておきましょう。
おじいさんが山へ芝刈りに。おばあさんも山に行きました。
おじいさんは、枯れ木に向かって灰を投げつけます。あ、芝刈りじゃなかったのか、というつっこみはなしの方向でお願いします。
そんなおじいさんをうっとりと見ていたおばあさんは、ふと一本の木が光っているのを見つけます。
「おじいさん、おじいさん、この木が光っておりますよ」
「おお、本当じゃ。ためしに折ってみようか」
ボキッ
年寄りとも思えぬ怪力で折った枝の中には、それはそれはかわいらしい女の子。
「あらあら、かわいらしいこと。どこの子かしら?」
その少女が大変気に入ったおばあさんは、優しく話しかけます。
「ねえ、そこのお嬢ちゃん。どうしてこんなところにいるのだい?親御さんは?」
少女は首を横に振るばかり。しめた、と内心思ったおばあさんは、優しく微笑んで言いました。
「飴あげるから、ついておいで」
「…」
少女はちょっと考えてから立ち上がり、おばあさんの手を握りました。
言っておきますが、これは誘拐ではありません。少女が、自発的におばあさんについてきたのです。…もう一度言いますが、誘拐ではありません。誰が何と言おうとも。むしろ、人命救助です。山の中に置き去りにされた少女を無断で連れ去った。立派な人命救助です。誘拐であるはずが、ありません。
時は流れ、かぐや姫と名づけられた少女はすくすくと美しく賢く育ちました。今では、おじいさんの手伝いをして芝刈りをしたり、穴の開いた屋根を修繕したり、熊と相撲をとったりもします。そうそう、とても優しくて正義感の強い子でもありましたので、雪の積もったお地蔵さんをかわいそうに思い、傘をかぶせてあげたこともありました。
そんなある日、かぐや姫は散歩に出た海岸で、いじめられている亀を助けます。
「ありがとうございます、かぐや姫さま」
「なあに、どうしてあなたは私の名前を知っているの?私はそんなに有名?」
「はい、姫さまのご高名は、遠くエーゲ海の底の竜宮城にまで届いております。わが国の猛者どもが、ぜひとも姫と相撲を…ゲフンゲフン、違う違う、うわさに聞く姫の美しさに思いを寄せております」
「まぁ…」
「どうでしょうか、姫さま。助けていただいたお礼に、あなた様を竜宮城にご招待したいと思います。我が主、乙姫様もきっとそれをお望みでございましょう」
「竜宮城は…遠いのかしら?日帰りで行ける?」
「なぜですか?」
「私の帰りが遅いと、私を育ててくださった優しいおじいさんとおばあさんがとても心配するでしょう」
「それなら大丈夫ですよ。海の底と地上とでは、時間の流れが違うのです。問題はありませんよ」
多分、と呟いた言葉は、小さすぎてかぐや姫の耳には届きませんでした。
助けた亀に連れられてやって来た竜宮城で、かぐや姫と乙姫は運命的な出会いをし、親友となりました。
鯛や平目の舞い踊り、ウツボやマグロとの相撲取り。
そして何より、乙姫との空手の特訓に、面白おかしく日々は過ぎていきます。
「ああ、楽しい」
「そう、それはよかったわ。…ねえ、かぐや」
「なあに?乙ちゃん」
「あなた、ずっとここでくらしましょうよ」
「ええ?」
「だって、あなたがいると毎日がとても楽しいんですもの。ね、あなたはそうじゃないの?」
「それは…。私も、とても楽しいわ。でも…」
「かぐや?」
「ねえ、お願い。時間を頂戴。少し…考えさせて」
「…わかったわ」
かぐや姫は考え込んでしまいました。
こんなに長居するつもりはなかった。きっと、おじいさんとおばあさんが私を心配している。早く帰って、安心させてあげなくては…。ああ、でもここでの生活は楽しい。それに…あちらへ帰っても、どうせすぐに月の使者が私を拉致しに…じゃなかった、連れ去りに、いや…ええっと…、そう、迎えに来るわ。そんなの、イヤだわ。せっかくあのジジイ…じゃなくって、天帝のところから逃げ出したっていうのに連れ戻されるなんて、絶対にイヤ。そんなことになれば、おじいさんとおばあさんだけではなく、乙ちゃんとも会えなくなってしまう…。今なら、あいつ等は私がここにいることに気づいていない。それに…気づいたところで、海の中は治外法権。私をムリにさらうことはできやしない。
だったら…。
1時間23分じっくり考えて、かぐや姫の決意は固まりました。
おじいさん、おばあさん、ごめんなさい。かぐやは、乙ちゃんと竜宮城で幸せになります。…あら、なんだか結婚の挨拶みたい?
「かぐや、心は決まった?」
「ええ、乙ちゃん。私…」
「…」
「乙ちゃんと、ここで暮らしていくわ」
「本当!?かぐや!!」
「ええ、よく考えたんだけど…ここで乙ちゃんと一緒にいるのが、私の一番の幸せのような気がするの」
「嬉しい!絶対に幸せにしてみせるからね、かぐや!!」
「ええ、こっちこそ。不束者ですが、どうぞ末永く…」
「「あれ?」」
こうして、かぐや姫は育ててくれたおじいさんとおばあさんのもとにも月の世界にも帰ることなく、今でも幸せに乙姫とともにエーゲ海の底の竜宮城で暮らしています。
そうそう、玉手箱がどうなったかって?
あの日、乙姫は、かぐや姫が地上に帰ると言ったら渡すつもりで用意をしていましたが、かぐや姫は地上には帰りませんでした。だから、今でも玉手箱は乙姫の手元にあります。ただ…中には、かぐや姫の“時間”ではなく、マスカラや口紅…二人の化粧品がはいった小物入れになっているとのうわさです。真偽のほどは定かではありませんが、ある有力な筋からの情報です、とだけ言っておきましょう。
Tue 17 , 23:43:32
2007/07
鳥のように空を飛べたらいい、と思う。
どこまでもどこまでも青い空を飛ぶことができたら、いいと思う。
空を見るのが、好きだ。
流れる雲を見るのが、好きだ。
飛ぶ鳥を見るのが、好きだ。
太陽の日差しを身に浴びるのが、好きだ。
木陰で寝転ぶのが、好きだ。
建物の中は息苦しい。
人の造ったものは、どこか窮屈さがあって、オレは時々とてもいたたまれなくなる。酸素が足りてないんじゃないか、とか考えてみる。
窓を閉め切った部屋は埃っぽくて、でも窓を開けると風が入ってくるから書類が飛ばされてしまう。窓ガラスの向こうには風に揺られてざわめく木々が見えるのに、部屋の中は無風で埃っぽくて、一種のいじめっぽい。
「…要するに、仕事をしたくないの?」
「別に、そういうわけじゃない」
「だったら、どうしたいのよ」
呆れた顔をしているのは、サクラだ。
オレはここのところずっと執務室にこもりきりで、お気に入りの場所に行って雲を眺めながら昼寝をしたいな、と考えている。だからそのために少しでも早く仕事を片付けようと常にないくらいにがんばっているのに、仕事は次から次へと送り込まれてくる。ついつい無言になってしまうのも、仕方がないと思う。
なのに、サクラはそんなオレを見て鬱陶しいから、理由を説明しなさい、と詰め寄ってきた。
なんだ、その自分勝手な言い分は。
そう思ったけど、それを言うとまたぎゃーぎゃーうるさそうだから諦めてこうしてサクラと飯を食いながら話してやったら、上のセリフだ。
女は身勝手で鬱陶しい。
「どうって…だから、オレの気に入りの特等席で、雲を眺めながらぼんやりして、気がついたらもう夕方で、どうやらオレは寝ちまってたらしい…なんて考えながらぶらぶらと家路に着く、っていうのが最高だ。ついでに、晩飯が鯖の味噌煮なら言うことはない」
「何、その無駄に具体的な計画は」
「それがムリだってわかってるから、わがままも言わずに仕事してやってるのに、どうしてわざわざこんなところにつれてこられておまえと二人で飯を食っているんだ、オレは?しかも、オレのおごりってどういう了見だよオイ」
「細かいことは気にしないの。男らしくないわよ」
「細かくねえよ」
「美人と一緒にお昼ご飯食べれて、嬉しいでしょ」
「…………………美人?」
「美人」
「何処に?」
「此処に」
「…何処?」
ドガ
思い切り殴られた。
「いや、おまえさぁ…」
「何?」
「すぐにそうやって暴力に訴えるなよ。最近五代目に似てきたぞ、おまえ」
「あら、嬉しい」
「…」
「師匠は、あたしの憧れで目標よ」
「…つまり、あれか?永遠の独身でいたいということか?伝説のカモになりたいのか?」
「どうしてそっちに行くのよ」
「間違ったことは言っていない」
「シカマルの師匠に対する認識がよくわかったわ」
「…」
周りにいるのは女ばかりで、明らかにオレは場違いで居心地が悪い。サクラのお勧めだけあって、確かに味は悪くないが量が微妙に足りない。同年代の男どもの中ではどちらかと言えば小食な部類に入るが、それでも一応男だ。サクラはこの量で満足でも、オレはそうは行かない。でも、我慢できないほどではないので妥協しよう。
「で、ほんとに…真面目な話、どうなのよ。最近おかしいわよ」
「何が」
「真面目に仕事をするシカマル。しかも、すごく不機嫌そうな顔してるのに文句ひとつ言わない。天変地異の前触れかしら?」
「すげえ言われようだな」
「事実よ」
「…」
「あんた、どうしたいの?」
「そうだな…仕事がある限り休みがとれないのはしょうがないが…せめて、部屋の窓を開けたい」
「書類が飛んでいくわよ」
「わかってる。だから、我慢してる」
「…」
「でも、それでもなぁ…息苦しいんだよ。狭い部屋に、天井までぴっちり書類を詰め込んで、窓も閉めっぱなしでドアも最低限しか開かない。気が狂っちまうぞ?」
「…」
「ま、めんどくせーけど…しょうがねぇか」
「シカマル…」
「そろそろ行くぞ。休憩時間は終わりだ」
伝票を手にして立ち上がると、サクラも慌てて立ち上がりながらオレの手の中にある伝票に手を伸ばす。
「誘ったのはあたしなんだから、あたしがおごるわよ」
「バーカ、女におごられるかよ、かっこ悪い。おとなしくおごられとけ」
「でも…」
「外で待ってろ」
会計を済ませて外に出ると、サクラが申し訳なさそうな微妙な顔で立ってた。
「ごちそうさまでした」
「はいはい」
「…ねえ、シカマル」
「あー?」
「休憩時間、ちょっと延長して遠回りして帰らない?」
「は?」
「散歩、しましょ。気分転換に」
めんどくさい、と言って断ろうとしたけれど、青い空に白い雲、そよぐ風に歌う緑。…目にしたら、その誘惑に自分でも驚くぐらいに惹かれてしまった。久しぶりにこういうものを目にした気がする。
空を高く飛ぶ鳥が目に入った。あの鳥は、何処から来て何処へ行くのだろうか。
「…なあ、サクラ」
「何?」
「鳥になりたいとか、思ったことあるか?」
「…」
「悪い、今の忘れろ」
「…あるわよ」
「…」
「私が鳥だったら、今すぐにサスケくんを追いかけるのに…って、昔、何回も思った。空から探せば、すぐに見つけられるんじゃないかな、ってずっと考えてた。でも、私は鳥じゃないから地上からあの人を…いろんなうわさに左右されながら探すことしかできなかった。ナルトについていくことしかできなくて、もどかしかった」
「…悪い、ヤなこと思い出させたな」
「別にいいわよ。今はちゃんとサスケくんも帰ってきたし」
「…」
「シカマルは…鳥になりたいの?」
「…さあな」
「…」
「ただ、あんな風に空を飛べたら…気持ちがいいだろうな、とは思う」
「シカマル…」
「一種の憧れだ。里も、家族も、仲間も、立場も、すべてを捨てて…鳥のように自由にどこへでも行ければ、それはある意味でとても幸せかもしれない。だが、現実は…オレは、何も捨てられずにこんなところで狭い部屋にこもって仕事をしているわけだ」
「…」
「んな顔するな。大丈夫だ。全部を捨てるなんてめんどくさいこと、オレがするわけないだろう」
「…うん」
「そろそろ戻らないと本気でやばいぞ」
「うん。帰りましょ」
サクラは、躊躇いがちにオレの手を握った。別にそんなことしなくてもオレはこの里から逃れられないのにな、と思いながらサクラの好きなようにさせていた。
オレは、アスマが守りたかったこの場所から逃げることなんて、できないのに。
それでも、時々考える。
鳥のように風に乗ってどこまでも飛ぶことができるのなら、それは何にも勝る幸福なのだろう、と。
どこまでもどこまでも青い空を飛ぶことができたら、いいと思う。
空を見るのが、好きだ。
流れる雲を見るのが、好きだ。
飛ぶ鳥を見るのが、好きだ。
太陽の日差しを身に浴びるのが、好きだ。
木陰で寝転ぶのが、好きだ。
建物の中は息苦しい。
人の造ったものは、どこか窮屈さがあって、オレは時々とてもいたたまれなくなる。酸素が足りてないんじゃないか、とか考えてみる。
窓を閉め切った部屋は埃っぽくて、でも窓を開けると風が入ってくるから書類が飛ばされてしまう。窓ガラスの向こうには風に揺られてざわめく木々が見えるのに、部屋の中は無風で埃っぽくて、一種のいじめっぽい。
「…要するに、仕事をしたくないの?」
「別に、そういうわけじゃない」
「だったら、どうしたいのよ」
呆れた顔をしているのは、サクラだ。
オレはここのところずっと執務室にこもりきりで、お気に入りの場所に行って雲を眺めながら昼寝をしたいな、と考えている。だからそのために少しでも早く仕事を片付けようと常にないくらいにがんばっているのに、仕事は次から次へと送り込まれてくる。ついつい無言になってしまうのも、仕方がないと思う。
なのに、サクラはそんなオレを見て鬱陶しいから、理由を説明しなさい、と詰め寄ってきた。
なんだ、その自分勝手な言い分は。
そう思ったけど、それを言うとまたぎゃーぎゃーうるさそうだから諦めてこうしてサクラと飯を食いながら話してやったら、上のセリフだ。
女は身勝手で鬱陶しい。
「どうって…だから、オレの気に入りの特等席で、雲を眺めながらぼんやりして、気がついたらもう夕方で、どうやらオレは寝ちまってたらしい…なんて考えながらぶらぶらと家路に着く、っていうのが最高だ。ついでに、晩飯が鯖の味噌煮なら言うことはない」
「何、その無駄に具体的な計画は」
「それがムリだってわかってるから、わがままも言わずに仕事してやってるのに、どうしてわざわざこんなところにつれてこられておまえと二人で飯を食っているんだ、オレは?しかも、オレのおごりってどういう了見だよオイ」
「細かいことは気にしないの。男らしくないわよ」
「細かくねえよ」
「美人と一緒にお昼ご飯食べれて、嬉しいでしょ」
「…………………美人?」
「美人」
「何処に?」
「此処に」
「…何処?」
ドガ
思い切り殴られた。
「いや、おまえさぁ…」
「何?」
「すぐにそうやって暴力に訴えるなよ。最近五代目に似てきたぞ、おまえ」
「あら、嬉しい」
「…」
「師匠は、あたしの憧れで目標よ」
「…つまり、あれか?永遠の独身でいたいということか?伝説のカモになりたいのか?」
「どうしてそっちに行くのよ」
「間違ったことは言っていない」
「シカマルの師匠に対する認識がよくわかったわ」
「…」
周りにいるのは女ばかりで、明らかにオレは場違いで居心地が悪い。サクラのお勧めだけあって、確かに味は悪くないが量が微妙に足りない。同年代の男どもの中ではどちらかと言えば小食な部類に入るが、それでも一応男だ。サクラはこの量で満足でも、オレはそうは行かない。でも、我慢できないほどではないので妥協しよう。
「で、ほんとに…真面目な話、どうなのよ。最近おかしいわよ」
「何が」
「真面目に仕事をするシカマル。しかも、すごく不機嫌そうな顔してるのに文句ひとつ言わない。天変地異の前触れかしら?」
「すげえ言われようだな」
「事実よ」
「…」
「あんた、どうしたいの?」
「そうだな…仕事がある限り休みがとれないのはしょうがないが…せめて、部屋の窓を開けたい」
「書類が飛んでいくわよ」
「わかってる。だから、我慢してる」
「…」
「でも、それでもなぁ…息苦しいんだよ。狭い部屋に、天井までぴっちり書類を詰め込んで、窓も閉めっぱなしでドアも最低限しか開かない。気が狂っちまうぞ?」
「…」
「ま、めんどくせーけど…しょうがねぇか」
「シカマル…」
「そろそろ行くぞ。休憩時間は終わりだ」
伝票を手にして立ち上がると、サクラも慌てて立ち上がりながらオレの手の中にある伝票に手を伸ばす。
「誘ったのはあたしなんだから、あたしがおごるわよ」
「バーカ、女におごられるかよ、かっこ悪い。おとなしくおごられとけ」
「でも…」
「外で待ってろ」
会計を済ませて外に出ると、サクラが申し訳なさそうな微妙な顔で立ってた。
「ごちそうさまでした」
「はいはい」
「…ねえ、シカマル」
「あー?」
「休憩時間、ちょっと延長して遠回りして帰らない?」
「は?」
「散歩、しましょ。気分転換に」
めんどくさい、と言って断ろうとしたけれど、青い空に白い雲、そよぐ風に歌う緑。…目にしたら、その誘惑に自分でも驚くぐらいに惹かれてしまった。久しぶりにこういうものを目にした気がする。
空を高く飛ぶ鳥が目に入った。あの鳥は、何処から来て何処へ行くのだろうか。
「…なあ、サクラ」
「何?」
「鳥になりたいとか、思ったことあるか?」
「…」
「悪い、今の忘れろ」
「…あるわよ」
「…」
「私が鳥だったら、今すぐにサスケくんを追いかけるのに…って、昔、何回も思った。空から探せば、すぐに見つけられるんじゃないかな、ってずっと考えてた。でも、私は鳥じゃないから地上からあの人を…いろんなうわさに左右されながら探すことしかできなかった。ナルトについていくことしかできなくて、もどかしかった」
「…悪い、ヤなこと思い出させたな」
「別にいいわよ。今はちゃんとサスケくんも帰ってきたし」
「…」
「シカマルは…鳥になりたいの?」
「…さあな」
「…」
「ただ、あんな風に空を飛べたら…気持ちがいいだろうな、とは思う」
「シカマル…」
「一種の憧れだ。里も、家族も、仲間も、立場も、すべてを捨てて…鳥のように自由にどこへでも行ければ、それはある意味でとても幸せかもしれない。だが、現実は…オレは、何も捨てられずにこんなところで狭い部屋にこもって仕事をしているわけだ」
「…」
「んな顔するな。大丈夫だ。全部を捨てるなんてめんどくさいこと、オレがするわけないだろう」
「…うん」
「そろそろ戻らないと本気でやばいぞ」
「うん。帰りましょ」
サクラは、躊躇いがちにオレの手を握った。別にそんなことしなくてもオレはこの里から逃れられないのにな、と思いながらサクラの好きなようにさせていた。
オレは、アスマが守りたかったこの場所から逃げることなんて、できないのに。
それでも、時々考える。
鳥のように風に乗ってどこまでも飛ぶことができるのなら、それは何にも勝る幸福なのだろう、と。
Tue 10 , 23:07:58
2007/07
激しく降りしきる雨の下、心さえも冷え切るほどに濡れそぼったのなら、誰にも気づかれないことでしょう。
わたしが、泣いている…なんてこと。
誰も、私に気づかないでしょう。
突然、雨がやんだ。
「…何してるの?」
「…カカシ先輩」
振り返ると、顔を半分以上隠したかつての先輩が微笑みながら立っていた。その手には、傘。雨粒が傘にあたり、パラパラと音を立てる。
「…先輩こそ。今、何時だと思っているんですか?」
「1時をすぎたくらいかな」
「寝ないんですか?」
「おまえは?」
「私は…」
言いよどむ私に、先輩はそれ以上何も言わなかった。
ハヤテが死んでから、私はうまく眠れない。
暗部に属するものとして、どんな任務もためらわずに成し遂げてきた。人が死ぬところなんて、もういやというほどに見てきた。いやというほどに、殺してきた。
それなのに…たった一人の死から、いまだ立ち直れない滑稽な自分がいる。
「…」
「…」
身体をずらして、先輩の傘から出た。
冷たい雨が身体に叩きつける。
「…夕顔」
「いりません」
「…」
「雨に…思い切り、打たれていたい…」
「…」
そう言って笑って見せたけれど、おそらく私は上手に笑えていない。
でも、先輩は優しく微笑んで傘を閉じた。
「そうだね…たまには、そんなのもいいかもしれない」
「…」
激しい雨に、瞬く間に先輩も全身濡れそぼってしまった。
銀の髪が雨にぬれて顔にかかっている。
ほとんど無意識のうちに、手を伸ばしていた。
「…」
顔にかかる銀髪をかきあげると、寂しそうな目で優しく微笑む先輩と目が合った。
「…風邪を、ひくよ」
「…」
先輩はそっと身体を引いて私から離れて、もう一度微笑んだ。
「オレは…もう、帰るよ。おまえも早く家に帰って…熱いシャワーでもあびて、寝なさいね」
「先輩…」
「おやすみ」
「…おやすみなさい」
雨は、変わらず降り続けている。
私は、相変わらず寂しくて悲しい。
ハヤテに、会いたい。
もう二度と会えないことを知っている。
それでももう一度、と願い続ける私に先輩は何も言わない。
先輩だけが、何も言わない。
ほかのみんなは、口々に忘れろ、と言ったのに。
この激しい雨に身をさらし続ければ、いつか…哀しみも消えてしまえばいいのに。
楽しかった思い出だけが、そうして残ればいいのに。
わたしが、泣いている…なんてこと。
誰も、私に気づかないでしょう。
突然、雨がやんだ。
「…何してるの?」
「…カカシ先輩」
振り返ると、顔を半分以上隠したかつての先輩が微笑みながら立っていた。その手には、傘。雨粒が傘にあたり、パラパラと音を立てる。
「…先輩こそ。今、何時だと思っているんですか?」
「1時をすぎたくらいかな」
「寝ないんですか?」
「おまえは?」
「私は…」
言いよどむ私に、先輩はそれ以上何も言わなかった。
ハヤテが死んでから、私はうまく眠れない。
暗部に属するものとして、どんな任務もためらわずに成し遂げてきた。人が死ぬところなんて、もういやというほどに見てきた。いやというほどに、殺してきた。
それなのに…たった一人の死から、いまだ立ち直れない滑稽な自分がいる。
「…」
「…」
身体をずらして、先輩の傘から出た。
冷たい雨が身体に叩きつける。
「…夕顔」
「いりません」
「…」
「雨に…思い切り、打たれていたい…」
「…」
そう言って笑って見せたけれど、おそらく私は上手に笑えていない。
でも、先輩は優しく微笑んで傘を閉じた。
「そうだね…たまには、そんなのもいいかもしれない」
「…」
激しい雨に、瞬く間に先輩も全身濡れそぼってしまった。
銀の髪が雨にぬれて顔にかかっている。
ほとんど無意識のうちに、手を伸ばしていた。
「…」
顔にかかる銀髪をかきあげると、寂しそうな目で優しく微笑む先輩と目が合った。
「…風邪を、ひくよ」
「…」
先輩はそっと身体を引いて私から離れて、もう一度微笑んだ。
「オレは…もう、帰るよ。おまえも早く家に帰って…熱いシャワーでもあびて、寝なさいね」
「先輩…」
「おやすみ」
「…おやすみなさい」
雨は、変わらず降り続けている。
私は、相変わらず寂しくて悲しい。
ハヤテに、会いたい。
もう二度と会えないことを知っている。
それでももう一度、と願い続ける私に先輩は何も言わない。
先輩だけが、何も言わない。
ほかのみんなは、口々に忘れろ、と言ったのに。
この激しい雨に身をさらし続ければ、いつか…哀しみも消えてしまえばいいのに。
楽しかった思い出だけが、そうして残ればいいのに。
Wed 04 , 19:50:56
2007/07
「ねえ、手を出して」
差し出した手のひらに乗せられたのは、キレイなビー玉だった。
「?」
「あげるよ」
「どうしてですか?」
「部屋の整理をしてたらね、出てきたんだ。持っていてもしょうがないものだし…誰かにあげようと思ってとりあえず外に出たら、キミがいたから」
その人は、里でも有名な人だった。
ナルトさんとサスケさんとサクラさんの先生。
はたけカカシさん。
何度か挨拶はしたことがあるけれど、一対一で話すのは初めてだ。
キレイな銀髪だな、と思う。
顔の半分以上を隠しているしいつも笑っているから、本当の表情は読み取れないけれど、それでも不快な印象を人に与えることはない。
不思議な人だ。
「カイとかメンマとか…ほかの子にあげたほうがいいんじゃないですか?」
うちの両親はこの人とほとんど関わりはない。
もちろん、任務で一緒になったことは多くあるし、父様の先生はカカシさんのライバルだって聞いたことがあるけれど。でも、かかわりは圧倒的に少ない。
きっと、このビー玉はこの人の大切なものなのに。
根拠はないけれどそう感じたから、だからどうせならこの人にとってもっと大切な…もしくは、意味のある人にあげればいいのに、と思った。
「なんで?」
「だって…わたしも、わたしの両親もカカシさんとそんなに親しいわけでもないのに…いただけません」
「あ、名前覚えててくれたんだ」
にっこり。
嬉しそうに笑った顔を見て、論点がずれてる、と思ったけれど、意外に思った。子どものように笑う人だ。
「はい」
「ありがとね。…あのね、レイ」
「はい」
「深い意味はないから、遠慮せずに受け取ってくれると嬉しいんだけど」
「でも…」
あげるのなら、カイやメンマの方が妥当だろうに。
それなのに、どうしてわたしにこのキラキラ光るビー玉をくれるのか。それが気になった。
「どうしてわたしなんですか?」
「さっき言わなかった?」
「たまたまいたから…?」
「そう」
「理由になっていません」
ビー玉に心惹かれないわけでは、決してない。
キラキラと光るそれはとてもキレイで心引かれる。
でも、本当に受け取っていいの?
「そうだなぁ…」
カカシさんは、あごに手を当てて真剣に考え出した。
「…」
「ちょっと、貸して」
何か思いついたのだろう、わたしの手のひらの上に転がっているビー玉をひとつつまみあげて、陽にかざして見せた。
「ほら、キレイでしょ」
「?…はい」
「わかる?いろんな色に変わるの」
「あ、ホントだ…」
透明な玉だと思っていたそれは、陽にすけるといろいろな色に見えた。
「うわぁ…」
夢中になって見入ってしまった。
「…結局は、こういうことなのかもね」
「え?」
小さく呟いた声が耳に届いて、隣に立つ人を見ると、目が合った。
「レイ」
ビー玉をわたしの手の上に戻して、そのままカカシさんはわたしの額に触れた。
3ヶ月前に呪印をほどこされた、額に。
「あ…」
「自分を、縛っちゃダメだよ」
見られていたのか。
一人で、呪印に触れていた姿を。
昔と違い今では宗家とのわだかまりはほとんどない。それでも、分家の子どもは呪印を刻まれる運命にある。一生、宗家のしがらみからは逃れられない。それだけはこれからも変わらない。
わたしが呪印を刻まれることが決まった日、父が声を出さずにこっそり泣いていたのを知っている。
両親の前では大丈夫、気にしてなんかない、という態度をとり続けているけれど、一人になれば呪印は心に重くのしかかる。
枷を、はめられてしまったのだと。
「オレはね、キミのお父さんや…おじいさんも、知ってる。二人とも、すごく苦しんで、悩んで…。自分を縛っているように見えたよ。キミも、今…とても辛いかもしれない。でも、自分を縛っちゃダメだよ。難しいことかもしれないけど、可能性なんていくつも…本当にいくつも、あるんだから」
涙が、出た。
父様の前では、泣けない。母様の前でも、泣けない。
ずっと、泣けなかったけれど。
わたしは、ほとんど初めて話した人の前で、思い切り泣いてしまった。
「ほら」
ようやく落ち着いて涙もとまりかけてきたころ、カカシさんはビー玉の乗ったわたしの手の上にそっと手を重ねた。
(あったかい…)
「キミは、幸せにならなくちゃいけないんだよ」
「…」
「もちろん、大人になってからどう生きるかはわからないけどね、少なくとも…子どものうちは、毎日笑って、毎日幸せになる権利があるんだよ」
カカシさんの目はとても真っ直ぐで、とてもキレイだと思った。
「子どもは、幸せにならなきゃいけないんだよ」
ね?顔を覗き込まれて、涙でぐちゃぐちゃになっているはずだからはずかしかったけど、わたしはカカシさんの目を見てうなずいた。
「くじけそうになったら、このビー玉を思い出して。取り出して、陽にかざしてごらん。いろんな色に輝いて見えるから」
もう一度、うなずく。
「ありがとう…ございます」
カカシさんはにっこり笑って、それからわたしが完全に泣き止むまでそばにいてくれた。
カカシさんは、一族ではないのに写輪眼をもっている。どうしてあの人がそれをもっているのかわたしは知らないけれど、もしかしたらそのことでいろいろ辛い思いをしたのかもしれない。だから、わたしに気づいてくれたのかもしれない。ありがとう。本当に、心からあの人にありがとうと言いたい。どれだけお礼を言ってもまだ足りない。
優しい、人。
手のひらに残った7つのビー玉。
それはきっと、元気になれる、幸せの詰まった光の雫。
差し出した手のひらに乗せられたのは、キレイなビー玉だった。
「?」
「あげるよ」
「どうしてですか?」
「部屋の整理をしてたらね、出てきたんだ。持っていてもしょうがないものだし…誰かにあげようと思ってとりあえず外に出たら、キミがいたから」
その人は、里でも有名な人だった。
ナルトさんとサスケさんとサクラさんの先生。
はたけカカシさん。
何度か挨拶はしたことがあるけれど、一対一で話すのは初めてだ。
キレイな銀髪だな、と思う。
顔の半分以上を隠しているしいつも笑っているから、本当の表情は読み取れないけれど、それでも不快な印象を人に与えることはない。
不思議な人だ。
「カイとかメンマとか…ほかの子にあげたほうがいいんじゃないですか?」
うちの両親はこの人とほとんど関わりはない。
もちろん、任務で一緒になったことは多くあるし、父様の先生はカカシさんのライバルだって聞いたことがあるけれど。でも、かかわりは圧倒的に少ない。
きっと、このビー玉はこの人の大切なものなのに。
根拠はないけれどそう感じたから、だからどうせならこの人にとってもっと大切な…もしくは、意味のある人にあげればいいのに、と思った。
「なんで?」
「だって…わたしも、わたしの両親もカカシさんとそんなに親しいわけでもないのに…いただけません」
「あ、名前覚えててくれたんだ」
にっこり。
嬉しそうに笑った顔を見て、論点がずれてる、と思ったけれど、意外に思った。子どものように笑う人だ。
「はい」
「ありがとね。…あのね、レイ」
「はい」
「深い意味はないから、遠慮せずに受け取ってくれると嬉しいんだけど」
「でも…」
あげるのなら、カイやメンマの方が妥当だろうに。
それなのに、どうしてわたしにこのキラキラ光るビー玉をくれるのか。それが気になった。
「どうしてわたしなんですか?」
「さっき言わなかった?」
「たまたまいたから…?」
「そう」
「理由になっていません」
ビー玉に心惹かれないわけでは、決してない。
キラキラと光るそれはとてもキレイで心引かれる。
でも、本当に受け取っていいの?
「そうだなぁ…」
カカシさんは、あごに手を当てて真剣に考え出した。
「…」
「ちょっと、貸して」
何か思いついたのだろう、わたしの手のひらの上に転がっているビー玉をひとつつまみあげて、陽にかざして見せた。
「ほら、キレイでしょ」
「?…はい」
「わかる?いろんな色に変わるの」
「あ、ホントだ…」
透明な玉だと思っていたそれは、陽にすけるといろいろな色に見えた。
「うわぁ…」
夢中になって見入ってしまった。
「…結局は、こういうことなのかもね」
「え?」
小さく呟いた声が耳に届いて、隣に立つ人を見ると、目が合った。
「レイ」
ビー玉をわたしの手の上に戻して、そのままカカシさんはわたしの額に触れた。
3ヶ月前に呪印をほどこされた、額に。
「あ…」
「自分を、縛っちゃダメだよ」
見られていたのか。
一人で、呪印に触れていた姿を。
昔と違い今では宗家とのわだかまりはほとんどない。それでも、分家の子どもは呪印を刻まれる運命にある。一生、宗家のしがらみからは逃れられない。それだけはこれからも変わらない。
わたしが呪印を刻まれることが決まった日、父が声を出さずにこっそり泣いていたのを知っている。
両親の前では大丈夫、気にしてなんかない、という態度をとり続けているけれど、一人になれば呪印は心に重くのしかかる。
枷を、はめられてしまったのだと。
「オレはね、キミのお父さんや…おじいさんも、知ってる。二人とも、すごく苦しんで、悩んで…。自分を縛っているように見えたよ。キミも、今…とても辛いかもしれない。でも、自分を縛っちゃダメだよ。難しいことかもしれないけど、可能性なんていくつも…本当にいくつも、あるんだから」
涙が、出た。
父様の前では、泣けない。母様の前でも、泣けない。
ずっと、泣けなかったけれど。
わたしは、ほとんど初めて話した人の前で、思い切り泣いてしまった。
「ほら」
ようやく落ち着いて涙もとまりかけてきたころ、カカシさんはビー玉の乗ったわたしの手の上にそっと手を重ねた。
(あったかい…)
「キミは、幸せにならなくちゃいけないんだよ」
「…」
「もちろん、大人になってからどう生きるかはわからないけどね、少なくとも…子どものうちは、毎日笑って、毎日幸せになる権利があるんだよ」
カカシさんの目はとても真っ直ぐで、とてもキレイだと思った。
「子どもは、幸せにならなきゃいけないんだよ」
ね?顔を覗き込まれて、涙でぐちゃぐちゃになっているはずだからはずかしかったけど、わたしはカカシさんの目を見てうなずいた。
「くじけそうになったら、このビー玉を思い出して。取り出して、陽にかざしてごらん。いろんな色に輝いて見えるから」
もう一度、うなずく。
「ありがとう…ございます」
カカシさんはにっこり笑って、それからわたしが完全に泣き止むまでそばにいてくれた。
カカシさんは、一族ではないのに写輪眼をもっている。どうしてあの人がそれをもっているのかわたしは知らないけれど、もしかしたらそのことでいろいろ辛い思いをしたのかもしれない。だから、わたしに気づいてくれたのかもしれない。ありがとう。本当に、心からあの人にありがとうと言いたい。どれだけお礼を言ってもまだ足りない。
優しい、人。
手のひらに残った7つのビー玉。
それはきっと、元気になれる、幸せの詰まった光の雫。
Tue 03 , 23:27:42
2007/07
いつの日か、もう一度会えたらいい。
そう、願っている――
こんな日には、オビトはよく遅刻してた。
澄み渡った空を眺めながら思った。
「だーかーらー、オレが悪かったって言ってるだろうが!」
「何それ。それで謝ってるつもり?」
「思いっきり、どこからどう見ても謝ってるだろう!?」
「…ふーん。…別に、いいけど」
「言いたいことがあるならはっきり言えよ!」
「べっつにぃ~」
オビトは今日は1時間と17分も遅刻した。たいした任務じゃなかったから別に被害はなかったんだけど、このバカのせいで1時間と17分、時間を損したと思うと腹が立つ。
「まあまあ、カカシ。そのくらいで勘弁してあげなよぅ」
「ん!細かいところにはこだわるな。で、オビト。今日はどうして遅刻したのかな?」
先生とリンはにこにこ笑いながらオレたちのやり取りを見ていたけど、流石に見かねたのか割って入ってきた。
「え~っとぉ…」
「ん?」
「その…」
「さっさと言えよ」
「うるせえな!今、言おうとしてたんだよ!」
「もう、オビトもカカシも、いちいち喧嘩しないで」
「…ごめん」
「で?」
「天気が…よかったから、ちょっとぼーっとしてたら…」
「まさか…」
「うっかり、寝ちまって………………おきたら、集合時間1時間過ぎてた…」
「………」
「………」
「………」
三者三様の無言。
やっぱり、これはオレの怒りも正しいのではないだろうか。リンもものすごく呆れた、っていう顔してる。先生は…何を考えてるんだろう?なんか、嫌な予感…。
「よし!」
「…」
「今日は、みんなで布団を干そうか!」
「はぁ!?」
「で、その布団でオレの家でお泊り会をしよう!お日様の匂いの布団、気持ちいいよ~」
先生の提案は、いつも唐突だ。
オレたちは三人そろってぽかん、と間抜け面を晒していた。
「じゃあ、みんな布団もって、30分後にオレの家に再集合ね」
にっこり。
機嫌のいい猫みたいな顔で笑って、先生はオレたちの返事を聞かずに姿を消してしまった。
「えっとー…」
「布団もって行くって…布団って、結構重いよね」
「うん。それに…布団かついで里の中を行くの?」
「かっこわ…」
「それ以上言うな。悲しくなるから」
「…ごめん」
「…」
「…」
「…」
「「「はぁ…」」」
ため息をつきながらも、オレたちは多分、うきうきしてた。
先生が子どもみたいなことをいきなり言い出すのは珍しくなかった。最初は呆れながらそれに乗って…気がつけば、4人で思い切り笑いあっている。
まだまだ“子ども”と呼ばれる年齢でありながら既に忍として裏の社会を見ているオレたちにとって、そんな当たり前の子どもたちのような出来事は、何よりの幸福だったのだと思う。先生はそこまで考えてオレたちにこういう機会をくれているのか、それとも自分がそうしたいからするのかわからないが――おそらく、両方だと思うけど――オレたちは心から楽しんでいた。
本当は何気ないはずのこんな日常ははオレたちにしてみれば全然何気なくないし日常でもなくてすごく特別なことなんだけど、でも、先生は当たり前のようにオレたちにそれをくれるから、オレたちも当たり前のような顔をして受け取っていた。
笑いあうオレたちを見て、一緒に笑いながら、先生はとても幸せそうだった。
だから…
「まあ、布団かついで道を行く恥くらい…どうってこと…どうってこと…」
「あるよな」
「うん」
「…裏道通っていこうか」
「うん」
「さんせーい」
まあ、流石に遠い目になってしまうのは…しょうがないけれど。
いつの日にか、あんなにも幸福な時間を共に過ごした彼等ともう一度会えることを願っている。
それは、オレが生きている限りはムリなことなのだろう。
でも、いつか…いつか、オレが天寿を全うして、しわくちゃのおじいさんになって、老衰で死んだら、彼等はきっと笑って受け入れてくれる。
『おまえ、しわくちゃのじじいになったなぁ』
なんて笑いながら、受け入れてくれるはずだから。
だから、オレもその日が来たら笑って言うよ。
『永遠のガキに言われたくないよ』
そう、願っている――
こんな日には、オビトはよく遅刻してた。
澄み渡った空を眺めながら思った。
「だーかーらー、オレが悪かったって言ってるだろうが!」
「何それ。それで謝ってるつもり?」
「思いっきり、どこからどう見ても謝ってるだろう!?」
「…ふーん。…別に、いいけど」
「言いたいことがあるならはっきり言えよ!」
「べっつにぃ~」
オビトは今日は1時間と17分も遅刻した。たいした任務じゃなかったから別に被害はなかったんだけど、このバカのせいで1時間と17分、時間を損したと思うと腹が立つ。
「まあまあ、カカシ。そのくらいで勘弁してあげなよぅ」
「ん!細かいところにはこだわるな。で、オビト。今日はどうして遅刻したのかな?」
先生とリンはにこにこ笑いながらオレたちのやり取りを見ていたけど、流石に見かねたのか割って入ってきた。
「え~っとぉ…」
「ん?」
「その…」
「さっさと言えよ」
「うるせえな!今、言おうとしてたんだよ!」
「もう、オビトもカカシも、いちいち喧嘩しないで」
「…ごめん」
「で?」
「天気が…よかったから、ちょっとぼーっとしてたら…」
「まさか…」
「うっかり、寝ちまって………………おきたら、集合時間1時間過ぎてた…」
「………」
「………」
「………」
三者三様の無言。
やっぱり、これはオレの怒りも正しいのではないだろうか。リンもものすごく呆れた、っていう顔してる。先生は…何を考えてるんだろう?なんか、嫌な予感…。
「よし!」
「…」
「今日は、みんなで布団を干そうか!」
「はぁ!?」
「で、その布団でオレの家でお泊り会をしよう!お日様の匂いの布団、気持ちいいよ~」
先生の提案は、いつも唐突だ。
オレたちは三人そろってぽかん、と間抜け面を晒していた。
「じゃあ、みんな布団もって、30分後にオレの家に再集合ね」
にっこり。
機嫌のいい猫みたいな顔で笑って、先生はオレたちの返事を聞かずに姿を消してしまった。
「えっとー…」
「布団もって行くって…布団って、結構重いよね」
「うん。それに…布団かついで里の中を行くの?」
「かっこわ…」
「それ以上言うな。悲しくなるから」
「…ごめん」
「…」
「…」
「…」
「「「はぁ…」」」
ため息をつきながらも、オレたちは多分、うきうきしてた。
先生が子どもみたいなことをいきなり言い出すのは珍しくなかった。最初は呆れながらそれに乗って…気がつけば、4人で思い切り笑いあっている。
まだまだ“子ども”と呼ばれる年齢でありながら既に忍として裏の社会を見ているオレたちにとって、そんな当たり前の子どもたちのような出来事は、何よりの幸福だったのだと思う。先生はそこまで考えてオレたちにこういう機会をくれているのか、それとも自分がそうしたいからするのかわからないが――おそらく、両方だと思うけど――オレたちは心から楽しんでいた。
本当は何気ないはずのこんな日常ははオレたちにしてみれば全然何気なくないし日常でもなくてすごく特別なことなんだけど、でも、先生は当たり前のようにオレたちにそれをくれるから、オレたちも当たり前のような顔をして受け取っていた。
笑いあうオレたちを見て、一緒に笑いながら、先生はとても幸せそうだった。
だから…
「まあ、布団かついで道を行く恥くらい…どうってこと…どうってこと…」
「あるよな」
「うん」
「…裏道通っていこうか」
「うん」
「さんせーい」
まあ、流石に遠い目になってしまうのは…しょうがないけれど。
いつの日にか、あんなにも幸福な時間を共に過ごした彼等ともう一度会えることを願っている。
それは、オレが生きている限りはムリなことなのだろう。
でも、いつか…いつか、オレが天寿を全うして、しわくちゃのおじいさんになって、老衰で死んだら、彼等はきっと笑って受け入れてくれる。
『おまえ、しわくちゃのじじいになったなぁ』
なんて笑いながら、受け入れてくれるはずだから。
だから、オレもその日が来たら笑って言うよ。
『永遠のガキに言われたくないよ』
Sun 01 , 15:04:53
2007/07
ゆめを、見ていた。
懐かしいゆめを
きら きら
きら きら
輝いていた。
あのころの――
「こっちだ!」
「シッ、ヤバイ、誰か来るぞ」
「げっ、マクゴナガルじゃん」
「急げ!!」
コツコツコツコツ
「…行ったか?」
「多分」
「もうちょっとたってから行こうか」
「うん」
「よーっしゃぁ!」
「悪戯成功!!」
「フ~…ひやひやしたよ」
「ホント、キミたちといるとスリルには事欠かないね」
胸を押さえながら興奮の冷めない赤い顔でそう言うピーターをシリウスが軽く小突く。
「いてっ」
「なーに言ってんだよ」
恨みがましそうに見上げた先にはシリウスの呆れたような顔。
「わかってるのかい?」
シリウスの肩から顔を出したジェームズがシリウスと同じ顔をして僕に言う。
「な、何が…?」
シリウスとジェームズが顔を見合わせて同じ笑みをうかべた。
ニヤリ
まさに、そんな感じ。彼らお得意の何かたくらんでる顔。
「キミも、共犯者なんだよ?」
「仲間、なんだからな。一蓮托生に決まってるだろ?」
「なーに、傍観者みたいなこと言ってるんだが」
「覚悟が甘いぞ」
「…」
「主犯者はキミたちだけどね」
呆れ顔のリーマスがそう言って、シリウスがそれに文句を言って、ジェームズが楽しそうにニヤニヤ笑っているけれど、僕はそれどころではなかった。
小さなころから、愚図、のろまと言われて友達なんて一人もいなかった。
ホグワーツに入ってから出会った彼等はとてもかっこよくて、素晴らしくて、だから僕みたいなのろまでも仲間に入れてやろう、ってしかたなく入れてくれたんだと思ってた。
でも、違った。
彼等は、本気で僕を仲間だと思ってくれている。
僕を、仲間だと…なんの躊躇いもなく、言ってくれる。
こんなゆめみたいなことが、あっていいのだろうか。
本当に、これは現実だろうか。
驚きか感動か戸惑いか…とにかく、突如として胸を襲った感情に呆然としていると、リーマスと目が合った。
リーマスは僕を見てにっこり笑った。
いつの間にかじゃれあいはシリウスとジェームズの二人になっていた。
本当に、彼等は仲がいい。まるで、双子みたいだ。
「ふあぁ…」
「ああ、もう寝たほうがいい時間だよね」
欠伸をすると、消灯時間なんてとっくに過ぎているけれど、と言いながらリーマスはじゃれあっている二人に声をかけた。
「そろそろ寝ようよ」
「ああ、そうだな」
「ほら、ピーター。行くぞ」
躊躇いもなく差し出された手。
「…」
「?どうしたんだよ」
その手をじっと見ていると、シリウスは不思議そうに首をかしげた。
「べ、別に…」
自分が何を考えていたのかばれれば、また呆れられるだろうから、慌てて首を横に振る。
「ふーん…?」
しばらく訝しそうに僕を見ていたけれど、早く部屋に戻りたかったのか…あるいは特に何も考えていなかったのか、シリウスは僕が彼の手を取るより先に僕の手を掴んだ。
「ほら、さっさと戻るぞ」
指の長い大きな手はしっかりと僕の手を掴んで呆れるくらい強引にひっぱっていく。
「ああ、もう…ジェームズたち、もうあんなところにいるじゃねえか」
「ご、ごめん」
「…謝るなよ」
「ごめん」
「だから、謝るなってば…」
見上げると、月光に照らされた彼のキレイな顔は少し怒ったような、困ったような表情に見えた。
「おまえさー…いっつも、なんか…オレたちに対して一歩ひいてるっていうか…なんつーか…。とにかく、なんか、ちょっと後ろにいる感じがするんだよ」
「…」
「遠慮なんてするなよ。そんなの違うだろ。オレたち、仲間だろうが」
シリウスの言葉は、真っ直ぐだった。
大概において、シリウスは真っ直ぐだ。
きっと、僕たちの誰よりも真っ直ぐだ。
その真っ直ぐさはまぶしいほどで、いつだって彼は“ブラック家の”シリウスではなく、“グリフィンドールの”シリウスとして立っている。
最初は、僕は彼が怖かった。けれど、そのことに気づいてからは別の怖さがあった。いや、怖さと言うよりも…恐れ、畏怖、それから…憧れ。
僕には持ち得ないものを持っている、強い、強い少年。
手を伸ばしても届かない、遠い場所にいる人。
「仲間って…対等なものだろ?ちゃんと、顔上げろ。うつむくなよ。…目を見ろ。言いたいことがあったら、なんでも言え。オレだって、いつも好き勝手言ってる」
グイ、と顔を上向かされた。
「シ、シリウス…」
「相手と対等な目線で物を見ろ。自分を卑下するな」
その言葉は、どこか自分自身に向けられているようにも聞こえたけれど。
それでも、僕は十分に嬉しかった。いや、嬉しかったのかな?そんな言葉じゃ足りないけれど、とにかく…何かの感情で胸がいっぱいになってしまって…気がついたら泣いてしまっていた。
「お、おい、ピーター、泣くなよ…おいってば」
慌てふためいたシリウスの声がおかしくて、笑おうとしたらますます涙がぼろぼろ落ちていった。
「あーあー、シリウスがピーター泣かせたー」
いつの間に近くにやってきたのか、ジェームズが言った。
「ダメじゃない、シリウス」
リーマスも同じようにシリウスに文句を言う。
「な、な、泣かせてない!オレは何もしてない、…よな?」
言いながら不安になったらしいシリウスは慌てて僕の顔を覗き込んだ。その慌てっぷりが面白かったから僕はあえて何も言わないでいた。
「おい、否定しろよ~」
シリウスの、情けない声。
僕は耐えられずに思いきり笑ってしまった。
シリウスの隣ではジェームズもリーマスも大声で笑っている。
「~~~~っ」
からかわれていたと気づいたシリウスは、顔を真っ赤にしてジェームズを殴っていた。
ゆめを、見ていた。
遠い、遠い昔のゆめを。
きら きら
きら きら
光り続けるあの星。
星、はとてもとても遠くにある。
だから、僕らが今見ているあの光は、本当は遠い遠い昔に死んでしまった星のものだってきいたことがある。
きら きら
きら きら
懐かしい、光よ。
もう二度と戻らない過去の光よ。
輝いていた、あのころの、僕たちのつかの間の幸福よ
懐かしいゆめを
きら きら
きら きら
輝いていた。
あのころの――
「こっちだ!」
「シッ、ヤバイ、誰か来るぞ」
「げっ、マクゴナガルじゃん」
「急げ!!」
コツコツコツコツ
「…行ったか?」
「多分」
「もうちょっとたってから行こうか」
「うん」
「よーっしゃぁ!」
「悪戯成功!!」
「フ~…ひやひやしたよ」
「ホント、キミたちといるとスリルには事欠かないね」
胸を押さえながら興奮の冷めない赤い顔でそう言うピーターをシリウスが軽く小突く。
「いてっ」
「なーに言ってんだよ」
恨みがましそうに見上げた先にはシリウスの呆れたような顔。
「わかってるのかい?」
シリウスの肩から顔を出したジェームズがシリウスと同じ顔をして僕に言う。
「な、何が…?」
シリウスとジェームズが顔を見合わせて同じ笑みをうかべた。
ニヤリ
まさに、そんな感じ。彼らお得意の何かたくらんでる顔。
「キミも、共犯者なんだよ?」
「仲間、なんだからな。一蓮托生に決まってるだろ?」
「なーに、傍観者みたいなこと言ってるんだが」
「覚悟が甘いぞ」
「…」
「主犯者はキミたちだけどね」
呆れ顔のリーマスがそう言って、シリウスがそれに文句を言って、ジェームズが楽しそうにニヤニヤ笑っているけれど、僕はそれどころではなかった。
小さなころから、愚図、のろまと言われて友達なんて一人もいなかった。
ホグワーツに入ってから出会った彼等はとてもかっこよくて、素晴らしくて、だから僕みたいなのろまでも仲間に入れてやろう、ってしかたなく入れてくれたんだと思ってた。
でも、違った。
彼等は、本気で僕を仲間だと思ってくれている。
僕を、仲間だと…なんの躊躇いもなく、言ってくれる。
こんなゆめみたいなことが、あっていいのだろうか。
本当に、これは現実だろうか。
驚きか感動か戸惑いか…とにかく、突如として胸を襲った感情に呆然としていると、リーマスと目が合った。
リーマスは僕を見てにっこり笑った。
いつの間にかじゃれあいはシリウスとジェームズの二人になっていた。
本当に、彼等は仲がいい。まるで、双子みたいだ。
「ふあぁ…」
「ああ、もう寝たほうがいい時間だよね」
欠伸をすると、消灯時間なんてとっくに過ぎているけれど、と言いながらリーマスはじゃれあっている二人に声をかけた。
「そろそろ寝ようよ」
「ああ、そうだな」
「ほら、ピーター。行くぞ」
躊躇いもなく差し出された手。
「…」
「?どうしたんだよ」
その手をじっと見ていると、シリウスは不思議そうに首をかしげた。
「べ、別に…」
自分が何を考えていたのかばれれば、また呆れられるだろうから、慌てて首を横に振る。
「ふーん…?」
しばらく訝しそうに僕を見ていたけれど、早く部屋に戻りたかったのか…あるいは特に何も考えていなかったのか、シリウスは僕が彼の手を取るより先に僕の手を掴んだ。
「ほら、さっさと戻るぞ」
指の長い大きな手はしっかりと僕の手を掴んで呆れるくらい強引にひっぱっていく。
「ああ、もう…ジェームズたち、もうあんなところにいるじゃねえか」
「ご、ごめん」
「…謝るなよ」
「ごめん」
「だから、謝るなってば…」
見上げると、月光に照らされた彼のキレイな顔は少し怒ったような、困ったような表情に見えた。
「おまえさー…いっつも、なんか…オレたちに対して一歩ひいてるっていうか…なんつーか…。とにかく、なんか、ちょっと後ろにいる感じがするんだよ」
「…」
「遠慮なんてするなよ。そんなの違うだろ。オレたち、仲間だろうが」
シリウスの言葉は、真っ直ぐだった。
大概において、シリウスは真っ直ぐだ。
きっと、僕たちの誰よりも真っ直ぐだ。
その真っ直ぐさはまぶしいほどで、いつだって彼は“ブラック家の”シリウスではなく、“グリフィンドールの”シリウスとして立っている。
最初は、僕は彼が怖かった。けれど、そのことに気づいてからは別の怖さがあった。いや、怖さと言うよりも…恐れ、畏怖、それから…憧れ。
僕には持ち得ないものを持っている、強い、強い少年。
手を伸ばしても届かない、遠い場所にいる人。
「仲間って…対等なものだろ?ちゃんと、顔上げろ。うつむくなよ。…目を見ろ。言いたいことがあったら、なんでも言え。オレだって、いつも好き勝手言ってる」
グイ、と顔を上向かされた。
「シ、シリウス…」
「相手と対等な目線で物を見ろ。自分を卑下するな」
その言葉は、どこか自分自身に向けられているようにも聞こえたけれど。
それでも、僕は十分に嬉しかった。いや、嬉しかったのかな?そんな言葉じゃ足りないけれど、とにかく…何かの感情で胸がいっぱいになってしまって…気がついたら泣いてしまっていた。
「お、おい、ピーター、泣くなよ…おいってば」
慌てふためいたシリウスの声がおかしくて、笑おうとしたらますます涙がぼろぼろ落ちていった。
「あーあー、シリウスがピーター泣かせたー」
いつの間に近くにやってきたのか、ジェームズが言った。
「ダメじゃない、シリウス」
リーマスも同じようにシリウスに文句を言う。
「な、な、泣かせてない!オレは何もしてない、…よな?」
言いながら不安になったらしいシリウスは慌てて僕の顔を覗き込んだ。その慌てっぷりが面白かったから僕はあえて何も言わないでいた。
「おい、否定しろよ~」
シリウスの、情けない声。
僕は耐えられずに思いきり笑ってしまった。
シリウスの隣ではジェームズもリーマスも大声で笑っている。
「~~~~っ」
からかわれていたと気づいたシリウスは、顔を真っ赤にしてジェームズを殴っていた。
ゆめを、見ていた。
遠い、遠い昔のゆめを。
きら きら
きら きら
光り続けるあの星。
星、はとてもとても遠くにある。
だから、僕らが今見ているあの光は、本当は遠い遠い昔に死んでしまった星のものだってきいたことがある。
きら きら
きら きら
懐かしい、光よ。
もう二度と戻らない過去の光よ。
輝いていた、あのころの、僕たちのつかの間の幸福よ
Mon 18 , 19:20:44
2007/06
ナルトが大怪我をして帰ってきた。
里に着くまでは気力で持たせてけど、門の中に入ったとたん、気を失ったらしい。門兵が急いで病院まで運び込んでくれて、今、綱手様が治療をしている。
集中治療室に入ってから、もう8時間。
いろんな治療忍が2時間ぐらいのペースで交代して治療してるけど、綱手様はまだいっぺんも出てきてない。綱手様の助手をやっているサクラとシズネも、出てきてない。
つかれきった顔で部屋から出てくる人たちに聞くこともできずに、オレは治療室に繋がる廊下のベンチで、一人座り込んでいる。
「ナルト…」
生きていてほしい。
もう一度、笑顔を見たい。
声を聞きたい。
あの光を、失いたくない。
ガチャ
ドアの開く音にばっと顔を上げると、そこにいたのはサクラだった。
「サクラ…」
「綱手様に、追い出されちゃった。『休んで来い』って…」
サクラは疲れきった顔で、泣きそうに笑った。
「…サクラ、大丈夫?」
「カカシ先生よりは大丈夫よ、きっと」
「…」
「どんな顔してるのか、自分でもわかってないでしょ。ひどい顔だわ…」
サクラの細い指がオレの頬に触れた。
「ナルトが起きたときに先生が倒れてたら意味がないわよ。…私と一緒に、ちょっと休憩しましょう」
小さな子どもに言い聞かせるような優しい声。
「…」
でも、動きたくなかった。
ここでナルトを待っていたかった。
少しでも、近い場所で。
「…あのね、カカシ先生」
「…」
「先生がここでどれだけがんばっても、ナルトがよくなるわけじゃないのよ」
「うん」
「先生のほうがよっぽど死にそうな顔してる」
「…」
「目が覚めたナルトにそんな顔を見せたいの?ナルトのほうがびっくりすわよ」
「…うん」
「ね、カカシ先生。お願いだからちゃんと休んで」
「…うん」
離れたくなかったけれど、サクラの言葉があんまり真っ直ぐで。
真剣に、オレを案じているのだとわかっていたから。
だから、ナルトのことだけでもこれ以上ないくらい不安で心細いはずのサクラに心配をかけるのはいけないのだと思った。
「うん。…ちょっと、なんか食べて寝るよ」
立ち上がろうとして、気がついた。
いつの間に、オレは手を組んでいたんだ?
神様なんて信じない。
いつだってオレの大切な人を奪っていくから。
神様なんて信じない。
いつだってニンゲンたちは戦って戦って傷ついているから。
神様なんて信じない。
だって、カミサマがいるならみんなもっと幸せなはずだから。
それなのに、オレはどうして祈っているのだろう。
両手を組んで、ナルトが助かるように、って、ずっと祈ってた。
誰に祈っていたの?
どうして祈っていたの?
祈ることがどれだけ意味のないことかわかっているのに。
「…祈ることは、きっと無意味なんかじゃないわよ」
組んだままの手をじっと見ていたら、サクラがそっと言った。
細い指が、今度は組まれたままの手に触れる。
「ナルトが、…どうか、早く目覚めてくれますように……」
オレの手を包み込みながら、サクラはそう祈った。
その言葉を聞いて、オレは思い出した。
『言霊って知ってる?』
『あのね、カカシ。言葉には力があるんだよ。だから、不安でどうしようもなかったら“大丈夫”って言ってみて。嬉しくて楽しくて幸せな気分になれたら、笑ってみて。それから“幸せだな”っていってみて。きっと、もっと幸せになれるから』
遠い昔に聞いた、あの人の言葉。
(先生…)
記憶の中の変わらない笑顔。
(忘れてた。…そうだったね、信じてみる)
「ナルトは…きっと、もうすぐ目が覚めるね」
オレの言葉を聞いて、サクラはにっこり笑った。
疲れきった顔をしているのに、その笑顔はとてもキレイで、サクラは随分と大人になったのだと思った。
サクラがいてくれて、よかったと思った。
里に着くまでは気力で持たせてけど、門の中に入ったとたん、気を失ったらしい。門兵が急いで病院まで運び込んでくれて、今、綱手様が治療をしている。
集中治療室に入ってから、もう8時間。
いろんな治療忍が2時間ぐらいのペースで交代して治療してるけど、綱手様はまだいっぺんも出てきてない。綱手様の助手をやっているサクラとシズネも、出てきてない。
つかれきった顔で部屋から出てくる人たちに聞くこともできずに、オレは治療室に繋がる廊下のベンチで、一人座り込んでいる。
「ナルト…」
生きていてほしい。
もう一度、笑顔を見たい。
声を聞きたい。
あの光を、失いたくない。
ガチャ
ドアの開く音にばっと顔を上げると、そこにいたのはサクラだった。
「サクラ…」
「綱手様に、追い出されちゃった。『休んで来い』って…」
サクラは疲れきった顔で、泣きそうに笑った。
「…サクラ、大丈夫?」
「カカシ先生よりは大丈夫よ、きっと」
「…」
「どんな顔してるのか、自分でもわかってないでしょ。ひどい顔だわ…」
サクラの細い指がオレの頬に触れた。
「ナルトが起きたときに先生が倒れてたら意味がないわよ。…私と一緒に、ちょっと休憩しましょう」
小さな子どもに言い聞かせるような優しい声。
「…」
でも、動きたくなかった。
ここでナルトを待っていたかった。
少しでも、近い場所で。
「…あのね、カカシ先生」
「…」
「先生がここでどれだけがんばっても、ナルトがよくなるわけじゃないのよ」
「うん」
「先生のほうがよっぽど死にそうな顔してる」
「…」
「目が覚めたナルトにそんな顔を見せたいの?ナルトのほうがびっくりすわよ」
「…うん」
「ね、カカシ先生。お願いだからちゃんと休んで」
「…うん」
離れたくなかったけれど、サクラの言葉があんまり真っ直ぐで。
真剣に、オレを案じているのだとわかっていたから。
だから、ナルトのことだけでもこれ以上ないくらい不安で心細いはずのサクラに心配をかけるのはいけないのだと思った。
「うん。…ちょっと、なんか食べて寝るよ」
立ち上がろうとして、気がついた。
いつの間に、オレは手を組んでいたんだ?
神様なんて信じない。
いつだってオレの大切な人を奪っていくから。
神様なんて信じない。
いつだってニンゲンたちは戦って戦って傷ついているから。
神様なんて信じない。
だって、カミサマがいるならみんなもっと幸せなはずだから。
それなのに、オレはどうして祈っているのだろう。
両手を組んで、ナルトが助かるように、って、ずっと祈ってた。
誰に祈っていたの?
どうして祈っていたの?
祈ることがどれだけ意味のないことかわかっているのに。
「…祈ることは、きっと無意味なんかじゃないわよ」
組んだままの手をじっと見ていたら、サクラがそっと言った。
細い指が、今度は組まれたままの手に触れる。
「ナルトが、…どうか、早く目覚めてくれますように……」
オレの手を包み込みながら、サクラはそう祈った。
その言葉を聞いて、オレは思い出した。
『言霊って知ってる?』
『あのね、カカシ。言葉には力があるんだよ。だから、不安でどうしようもなかったら“大丈夫”って言ってみて。嬉しくて楽しくて幸せな気分になれたら、笑ってみて。それから“幸せだな”っていってみて。きっと、もっと幸せになれるから』
遠い昔に聞いた、あの人の言葉。
(先生…)
記憶の中の変わらない笑顔。
(忘れてた。…そうだったね、信じてみる)
「ナルトは…きっと、もうすぐ目が覚めるね」
オレの言葉を聞いて、サクラはにっこり笑った。
疲れきった顔をしているのに、その笑顔はとてもキレイで、サクラは随分と大人になったのだと思った。
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