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白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
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Mon 09 , 00:28:55
2012/07
過去ねためもさるべーじ企画

・弁丸と梵天丸
・某国王女と某作曲家の幼少期エピソードのパロディ
・でも、梵ちゃんは男の子
・戦国

「今日からしばらく武田で預かることになった梵天丸だ。よろしく頼むぞ」



 その夜は、伊達からの客人のための歓迎の宴が開かれた。常の宴ならば、まだ幼い弁丸が参加できようはずもないが、今回だけは主賓である梵天丸がまだ幼く、年の近い者がいた方が落ち着けるだろう、ということで特別に招かれたのだ。

 初めて参加する宴と、目の前のご馳走に目を輝かせてきょろきょろと落ち着き無くあたりを見回していた弁丸だったが、信玄があらわれ、その隣に連れられた少年を見た途端、そちらが気になって仕方ない。
「父上」
「どうした、弁丸」
「御館様の隣にいる子どもは誰でござる?」
「ん?あれは…」

「弁丸!」

 昌幸が弁丸の問いにこたえようとした瞬間、信玄が大きな声で弁丸を呼んだ。
「はい、御館様!弁丸はここに!!!」
 反射のように立ち上がって返事をすると、信玄が上機嫌で手招きをしている。その隣では、あの少年がじっと弁丸を見ていた。
 真っ白な肌に、黒くてさらさらのやわらかそうな髪の毛。なぜ、顔の右半分に布を巻いているのかわからないが、大きなまん丸の左目はじっと弁丸を見つめている。
(そ、某を見ておられる…っ!)
 信玄に「肝が据わっている」と太鼓判を押されるほどに、多少のことでは動揺しないはずの弁丸であるが、なぜだかどきどきしてしまい、手足がぎくしゃくとする。各々の膳の前に座った大人たちが見守る中、広間の真ん中を進みながら、弁丸の頭の中は真っ白になっていた。

 バッターーーーン!!!

 手足を同時に出して歩いていた弁丸は、真ん中あたりまで来たときに、自分の足につまずいて顔面から派手に転んでしまった。
(は、は、は、恥ずかしいでござるああぁぁあああぁぁぁあぁ!!!)
 大勢の前で転んだことより、敬愛する御館様の前で転んだことより、まだ名前も知らないあの少年の見ている前で無様に転んだことが、恥ずかしくてしょうがない。勢いよく床に突っ込んだ顔が熱い。恥ずかしさと情けなさで顔を上げられない。あの少年はこの弁丸の無様な姿を見て呆れただろうか。転んだ拍子にすりむいた手足も、思い切りぶつけた額や鼻も痛い。じんわりと、涙が滲んだ。
(泣いてはならぬ!おのこたるもの、いつでも強くなければならぬと御館様がおっしゃっていた!)
 自らを奮い立たせて立ち上がろうとするが、緊張が嫌な形で途切れたためか、上手く力が入らない上に、視界も涙で滲んで何も見えない。

「大丈夫か?」

「!」
 少し高い、子どもの声。聞いたことの無い声だが、顔を上げずとも誰のものか、なんてわかっている。だって、この場にいる子どもは弁丸のほかにはもう一人だけだ。
「あんた、大丈夫か?立てるか?」
 バッと勢いよく顔を上げると、ちょこんと弁丸の前にしゃがみこんだ少年が、心配そうに顔を覗き込んでいる。
「痛そうだ」
 白くて細い手が、赤くなっている弁丸の額に触れた。

 その瞬間。
 弁丸の顔が、ボンッと火がついたように真っ赤に染まった。
「Oh-,What's happen!?」
 驚き、目を丸くした少年が手をひこうとするのを両手でとらえ、ぎゅっと握り締める。
「そ、そ、そ、…っ」
「そ?」

「某の嫁になってくだされ絵えええぇぇぇええぇえええぇぇぇ!!!」


 シーン
 静まり返った広間にも、頭を抱えている父親にも、面白いものをみつけたように瞳を輝かせた主にも気付かず、弁丸は梵天丸の手を握り締めたまま続けた。
「某、そなたの優しさに惚れまいた!もとより、その美しさに心を奪われておりまいたが、心根まで、かように美しいとは…。感服の極みにござる!」
「え…あ、あんた、何言って…」
「おお、自己紹介がおくれ申し訳ござりませぬ。某、真田弁丸と申しまする!」
「あ…伊達、梵天丸だ」
「梵天丸殿!よい名にござりますな」
「さ、Thanks」
「さんくす?」
「ありがとう、という意味だ。…南蛮の言葉なんだ」
「南蛮の!梵天丸殿は物知りにございますなあ」
 にっこり笑う弁丸に、わずかに頬を染めた梵天丸は、そんなことない、と言ってそっぽを向くが握られた手をふりほどこうとはしない。
「そ、それより、あんた信玄公に呼ばれてただろ。さっさと行くぞ!」
 ばっと立ち上がった梵天丸は、弁丸に握られた手をそのままにすたすたと歩き出す。
「待ってくだされ、梵天丸殿!」
 繋がれた手が解かれないようにと、慌てて握った手に力を込めた弁丸も、慌てて立ち上がり梵天丸の隣に並ぶ。

「信玄公」
「御館様!」
 上座で、仁王立ちをして二人を待ち構えていた信玄は、こみ上げる笑いを隠そうともせず二人を迎え入れる。
「弁丸!」
「はいっ!!」
「梵天丸!」
「はい」
 信玄の大きな手が伸ばされる。嬉しそうに信玄を見上げる弁丸と、びくりと震えた梵天丸の、それぞれの頭に手は置かれ、わしゃわしゃとかき混ぜるように頭を撫でた。
「人と人との絆は何にもかえがたい、尊きもの。二人とも、せっかく年も近いkとおじゃ、仲良うするがよい!」
 嬉しそうに満面の笑みを浮かべる弁丸と、はにかんだような照れた表情を見せる梵天丸。小さな二人を見守る大人たちもほほえましげな視線を送っている。
 武田を担うべき一人である弁丸と、武田と同盟を組んだばかりの大国の跡取りである梵天丸。二人の小さな友情は、明日をも知れぬ戦乱の世に生きる大人たちにとって、明日への活力であり、未来への希望であった。
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