白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
Sun 08 , 23:59:21
2012/07
過去ネタメモさるべーじ企画
・小十郎と梵天丸
・戦国
えらい季節はずれですみません。
・小十郎と梵天丸
・戦国
えらい季節はずれですみません。
ふわふわ ふわふわ
やわらかくおちてくる白いもの
ふわふわ ふわふわ
やさしく、肩に、腕に、心に、降りてくるけれど
ふわふわ ふわふわ
ひんやり冷たくて、しゅっと溶けて、触らせてもくれない
ふわふわ ふわふわ
後に残るのは、冷たさだけ
ふわふわ ふわふわ
やっぱり、優しくなんて、ない
梵天丸は、庭先で雪を見ていた。雪が降り始めて、一刻もたっていないのに、あたりは行きで一面に白く化粧されていた。しんしんとふりつもる雪がすべての音を吸い取ってしまったかのようにあたりはしんとして、世界に一人しかいないみたいだ、とぼんやりと思った。
こんな風に、真っ白になれたらよかったのに。
白い世界はとてもきれいで、少し寂しくて、でも、完成された何かを持っていた。今更、無くなった右目に手を這わせたりはしないけれど、足りない右目がじくじく痛む。
手を伸ばす。雪がふれて、溶けて消えた。悲しくなって、すぐに手をひっこめた。
どれほど時間が経ったのか、音のなかった世界に、さくさくと音が響いた。
なんだろうと顔を上げると、こちらに走ってくる男がいた。小十郎だ。名前を予防としたが、声がうまくでない。
「梵天丸様!」
小十郎は怒ったような、泣きたいような顔をして梵天丸の前まで来て、自分の羽織を脱いで梵天丸にかぶせた。
「このようなところで、何をなさっているのですか!」
言いながら、梵天丸の手をとってぎゅっと握りこんだ。
「…あたたかいな」
「梵天丸様が冷え切っているのです」
梵手丸の小さな両手を右手だけですっぽりにぎりこんで、あいた左手をそっと頬に這わせる。小十郎の体温はそう高いほうではないけれど、冷え切った梵天丸の肌にはじんとしびれるように、温かく感じられて、不意に泣きたくなった。
「小十郎」
そっと名前を呼ぶと、声が少し震えた。それに気付いた小十郎は何かを言おうとするように口を開いたが、結局何も言わずにきゅっと唇をかみ締めてから、梵天丸の左目をのぞきこんだ。
「ここは冷えます。早く部屋にお戻りください」
「…」
「戻りたくないのですか」
「…」
「…小十郎の部屋に、参りますか」
まだ幼いとはいえ、主を家臣の部屋に招くのは躊躇われたが、それ以上に、この小さな主を一人にしたくなかったし、望まない場所に居させたくなかった。頷く代わりに小十郎の手をぎゅっとにぎりこんだ小さな手に、御免、と囁いて抱き上げた。 まだ幼いとはいえ、年に不釣合いな軽さにこっそりと眉をひそめる。
「あ」
歩き始めると、すぐに小さな声をもらした主に、どうしたものかと顔をのぞきこめば、何でもないというように首を横にふられた。真っ白な世界への大きな足跡。何もなかった世界に残されたソレに小さく笑う。明日、明後日にもなれば、雪は泥にまみれて着たくなっているのだろう。
きれいだから、汚れやすい。
小十郎にしがみつく腕に力をこめると、ほっとした。
(梵天丸はもう汚れているから、これ以上汚されることはない)
ささいなことで傷つく自分が、嫌だった。
弱い自分が嫌いだった。
泣くのはおよし、梵天丸。
昔、とう言って頭を撫でてくれた優しい人を覚えている。だから、こんなにも辛いのだ。つらいけれど、泣かないのだ。少し困ったように笑いながら頭を撫でて抱きしめてくれたひと。きっと、あの人はもう二度とあんな風には梵天丸を愛してくれない。それでも、ほんのわずかでも愛して欲しいから、みっともなくすがりつき、期待しては裏切られる。ああ、そうだ。あの人こそが、あの人の愛こそが雪のようだ。手に届きそうに見えるのに、手をのばしても触れることができない。手の上でひんやりと溶けてしまう、冷たいもの。
「梵天丸様、いったい、いつからあの場所におられたのですか。こんなに…雪まで、積もっております」
優しく、髪にかかる雪を払い落とす大きな手。暖かい手。はらはらと落とされる雪の塊。
泣きたくなって、でも泣けなくて、悲しくなりながら落ちていく雪を見ていた。こんな風に、あの人の…母の愛も、この身の上に降りかかればいいのに。そっと、降り積もればいいのに。
泣けない代わりに、小十郎の大きな手をぎゅっと握り締めた。
やわらかくおちてくる白いもの
ふわふわ ふわふわ
やさしく、肩に、腕に、心に、降りてくるけれど
ふわふわ ふわふわ
ひんやり冷たくて、しゅっと溶けて、触らせてもくれない
ふわふわ ふわふわ
後に残るのは、冷たさだけ
ふわふわ ふわふわ
やっぱり、優しくなんて、ない
梵天丸は、庭先で雪を見ていた。雪が降り始めて、一刻もたっていないのに、あたりは行きで一面に白く化粧されていた。しんしんとふりつもる雪がすべての音を吸い取ってしまったかのようにあたりはしんとして、世界に一人しかいないみたいだ、とぼんやりと思った。
こんな風に、真っ白になれたらよかったのに。
白い世界はとてもきれいで、少し寂しくて、でも、完成された何かを持っていた。今更、無くなった右目に手を這わせたりはしないけれど、足りない右目がじくじく痛む。
手を伸ばす。雪がふれて、溶けて消えた。悲しくなって、すぐに手をひっこめた。
どれほど時間が経ったのか、音のなかった世界に、さくさくと音が響いた。
なんだろうと顔を上げると、こちらに走ってくる男がいた。小十郎だ。名前を予防としたが、声がうまくでない。
「梵天丸様!」
小十郎は怒ったような、泣きたいような顔をして梵天丸の前まで来て、自分の羽織を脱いで梵天丸にかぶせた。
「このようなところで、何をなさっているのですか!」
言いながら、梵天丸の手をとってぎゅっと握りこんだ。
「…あたたかいな」
「梵天丸様が冷え切っているのです」
梵手丸の小さな両手を右手だけですっぽりにぎりこんで、あいた左手をそっと頬に這わせる。小十郎の体温はそう高いほうではないけれど、冷え切った梵天丸の肌にはじんとしびれるように、温かく感じられて、不意に泣きたくなった。
「小十郎」
そっと名前を呼ぶと、声が少し震えた。それに気付いた小十郎は何かを言おうとするように口を開いたが、結局何も言わずにきゅっと唇をかみ締めてから、梵天丸の左目をのぞきこんだ。
「ここは冷えます。早く部屋にお戻りください」
「…」
「戻りたくないのですか」
「…」
「…小十郎の部屋に、参りますか」
まだ幼いとはいえ、主を家臣の部屋に招くのは躊躇われたが、それ以上に、この小さな主を一人にしたくなかったし、望まない場所に居させたくなかった。頷く代わりに小十郎の手をぎゅっとにぎりこんだ小さな手に、御免、と囁いて抱き上げた。 まだ幼いとはいえ、年に不釣合いな軽さにこっそりと眉をひそめる。
「あ」
歩き始めると、すぐに小さな声をもらした主に、どうしたものかと顔をのぞきこめば、何でもないというように首を横にふられた。真っ白な世界への大きな足跡。何もなかった世界に残されたソレに小さく笑う。明日、明後日にもなれば、雪は泥にまみれて着たくなっているのだろう。
きれいだから、汚れやすい。
小十郎にしがみつく腕に力をこめると、ほっとした。
(梵天丸はもう汚れているから、これ以上汚されることはない)
ささいなことで傷つく自分が、嫌だった。
弱い自分が嫌いだった。
泣くのはおよし、梵天丸。
昔、とう言って頭を撫でてくれた優しい人を覚えている。だから、こんなにも辛いのだ。つらいけれど、泣かないのだ。少し困ったように笑いながら頭を撫でて抱きしめてくれたひと。きっと、あの人はもう二度とあんな風には梵天丸を愛してくれない。それでも、ほんのわずかでも愛して欲しいから、みっともなくすがりつき、期待しては裏切られる。ああ、そうだ。あの人こそが、あの人の愛こそが雪のようだ。手に届きそうに見えるのに、手をのばしても触れることができない。手の上でひんやりと溶けてしまう、冷たいもの。
「梵天丸様、いったい、いつからあの場所におられたのですか。こんなに…雪まで、積もっております」
優しく、髪にかかる雪を払い落とす大きな手。暖かい手。はらはらと落とされる雪の塊。
泣きたくなって、でも泣けなくて、悲しくなりながら落ちていく雪を見ていた。こんな風に、あの人の…母の愛も、この身の上に降りかかればいいのに。そっと、降り積もればいいのに。
泣けない代わりに、小十郎の大きな手をぎゅっと握り締めた。
PR
COMMENT
カレンダー
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |
カテゴリー
フリーエリア
最新記事
(12/10)
(08/20)
(07/24)
(06/25)
(05/01)
(04/28)
(04/17)
(04/15)
(03/05)
(03/04)
最新TB
プロフィール
HN:
静
性別:
女性
職業:
学生
趣味:
読書、昼寝
自己紹介:
更新はまったり遅いですが、徒然なるままに日記やら突発でSSやら書いていく所存ですのでどうぞヨロシク。
ブログ内検索
最古記事
(06/17)
(06/18)
(06/19)
(06/29)
(07/01)
(07/02)
(07/03)
(07/04)
(07/08)
(07/09)