白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
Sun 01 , 23:41:16
2012/07
過去ねためもさるべーじ企画
・真田主従
・暗いお話です
・弱い佐助と瀕死の幸村
なんで真田主従を書いたんだろ?でも、割と嫌いじゃないです。
・真田主従
・暗いお話です
・弱い佐助と瀕死の幸村
なんで真田主従を書いたんだろ?でも、割と嫌いじゃないです。
(あなたにあえた それだけでよかった)
織田との戦いで深い傷を負い、昏々と眠り続ける俺の主。止血をした。包帯を巻いた。俺様にできることはもうない。できるのはただ待つだけ。その、目覚めを。
いくつか年下の俺の主。
いつもはうるさいほどに元気だというのに、こうして瞳を閉じて横たわっていると、まだ大人になりきらない幼さやもともとの顔立ちの端整さと共に儚さが際立つ。
御館様のため、とわが身も顧みず、戦の先人を突っ走っていくこの人は、太陽が似合う人なのにどうしても死の気配がはなれない。
幾百幾千もの命をその手にかけようとも決して穢されない光だというのに、俺の不安は止まない。
「ねえ、旦那…俺様を失業させないでよ」
蠟燭の火がゆれるごとに、この人の命がけずられているのではないかと、らしくもない不安に煽られる。
この火が消えた瞬間に旦那も逝くんじゃないかと怖くなる。
(こんなの、俺様らしくないって…わかってるんだけどね)
自嘲しようとする口の端が引きつってしまうことに気付かないふりをしたいのに。
「あんまり遠くに…行かないで」
旦那が幼いころ。
遠くに行くなと何度言っても勝手にどこかに行っては迷子になっていたことを思い出す。まだ、旦那が弁丸様と呼ばれていたころだ。
「旦那、どこにいるの?俺様に見つけられるかな」
何度目だったか。迎えに行った際に、どうして言ったことを守らないのと怒ったことがある。あの時、旦那は何と答えたのだったっけ。
ふと、手を伸ばす。
首に手をかけ、しめる真似をした。
「今だったら、簡単に旦那のこと殺せるね」
俺は忍だ。労せずに人を殺せる手立てをいくつも知っている。このまま、旦那自身はおろか、他の誰にも気付かせないで旦那の命を奪う事だって容易い。
すぐに手をはなしたけれど、思いのほか細い首の感触はまだ手に残っている。
本当に、最期の手段だけれど。
この人が助からないのなら、この手で絞め殺してあげよう。他のヤツに何てこの人の命はあげない。さいごの最期、そのときにはこの人の命は俺がもらおう。今まで安月給で酷使されてきたんだから、そのくらいの権利はあるはずだ。
(まあ、ほんっとうは。返しきれないほどのものをもう、もらってるんだけど)
闇しかなかった世界に光をくれたのは旦那だ。
何だってできると思った。何を差し出しても食いはないと思った。あのときから、この人は俺のすべてだ。
『佐助が見つけるから、弁丸は遠くに行くんだ!』
幼い声が不意に聞こえた、気がした。
そうだ、あの時旦那は―弁丸様は、そうこたえたんだ。
涙と泥と汗と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、でも、しっかり俺の目を見て言い切ったんだ。何の曇りもない、無邪気な瞳で。遠慮のない、信頼をこめて。
「ねえ、旦那」
泣きたい、と思った。
でも俺は忍で、泣くすべなんて遠い昔に捨ててしまった。
「俺様にだって、見つけられないこと、あるんだよ。探しても、どうしようもない時だってあるんだ、だから…」
伸ばした手に触れる旦那の手はいつもよりも冷たい。でも、まだ、生きている人の手だ。その事実にすがるように握った手に力をこめた。
「今度は、ちゃんと自分で帰ってきてよ。もう大きくなったんだからさあ。大丈夫でしょ?俺様はここで待ってるから…ずっと、待ってるから…ちゃんと、帰ってきてよ」
そして、また、笑って。
風が吹く。蠟燭の火が揺れる。夜はまだ、明けない。
織田との戦いで深い傷を負い、昏々と眠り続ける俺の主。止血をした。包帯を巻いた。俺様にできることはもうない。できるのはただ待つだけ。その、目覚めを。
いくつか年下の俺の主。
いつもはうるさいほどに元気だというのに、こうして瞳を閉じて横たわっていると、まだ大人になりきらない幼さやもともとの顔立ちの端整さと共に儚さが際立つ。
御館様のため、とわが身も顧みず、戦の先人を突っ走っていくこの人は、太陽が似合う人なのにどうしても死の気配がはなれない。
幾百幾千もの命をその手にかけようとも決して穢されない光だというのに、俺の不安は止まない。
「ねえ、旦那…俺様を失業させないでよ」
蠟燭の火がゆれるごとに、この人の命がけずられているのではないかと、らしくもない不安に煽られる。
この火が消えた瞬間に旦那も逝くんじゃないかと怖くなる。
(こんなの、俺様らしくないって…わかってるんだけどね)
自嘲しようとする口の端が引きつってしまうことに気付かないふりをしたいのに。
「あんまり遠くに…行かないで」
旦那が幼いころ。
遠くに行くなと何度言っても勝手にどこかに行っては迷子になっていたことを思い出す。まだ、旦那が弁丸様と呼ばれていたころだ。
「旦那、どこにいるの?俺様に見つけられるかな」
何度目だったか。迎えに行った際に、どうして言ったことを守らないのと怒ったことがある。あの時、旦那は何と答えたのだったっけ。
ふと、手を伸ばす。
首に手をかけ、しめる真似をした。
「今だったら、簡単に旦那のこと殺せるね」
俺は忍だ。労せずに人を殺せる手立てをいくつも知っている。このまま、旦那自身はおろか、他の誰にも気付かせないで旦那の命を奪う事だって容易い。
すぐに手をはなしたけれど、思いのほか細い首の感触はまだ手に残っている。
本当に、最期の手段だけれど。
この人が助からないのなら、この手で絞め殺してあげよう。他のヤツに何てこの人の命はあげない。さいごの最期、そのときにはこの人の命は俺がもらおう。今まで安月給で酷使されてきたんだから、そのくらいの権利はあるはずだ。
(まあ、ほんっとうは。返しきれないほどのものをもう、もらってるんだけど)
闇しかなかった世界に光をくれたのは旦那だ。
何だってできると思った。何を差し出しても食いはないと思った。あのときから、この人は俺のすべてだ。
『佐助が見つけるから、弁丸は遠くに行くんだ!』
幼い声が不意に聞こえた、気がした。
そうだ、あの時旦那は―弁丸様は、そうこたえたんだ。
涙と泥と汗と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、でも、しっかり俺の目を見て言い切ったんだ。何の曇りもない、無邪気な瞳で。遠慮のない、信頼をこめて。
「ねえ、旦那」
泣きたい、と思った。
でも俺は忍で、泣くすべなんて遠い昔に捨ててしまった。
「俺様にだって、見つけられないこと、あるんだよ。探しても、どうしようもない時だってあるんだ、だから…」
伸ばした手に触れる旦那の手はいつもよりも冷たい。でも、まだ、生きている人の手だ。その事実にすがるように握った手に力をこめた。
「今度は、ちゃんと自分で帰ってきてよ。もう大きくなったんだからさあ。大丈夫でしょ?俺様はここで待ってるから…ずっと、待ってるから…ちゃんと、帰ってきてよ」
そして、また、笑って。
風が吹く。蠟燭の火が揺れる。夜はまだ、明けない。
PR
COMMENT
カレンダー
03 | 2025/04 | 05 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 |
カテゴリー
フリーエリア
最新記事
(12/10)
(08/20)
(07/24)
(06/25)
(05/01)
(04/28)
(04/17)
(04/15)
(03/05)
(03/04)
最新TB
プロフィール
HN:
静
性別:
女性
職業:
学生
趣味:
読書、昼寝
自己紹介:
更新はまったり遅いですが、徒然なるままに日記やら突発でSSやら書いていく所存ですのでどうぞヨロシク。
ブログ内検索
最古記事
(06/17)
(06/18)
(06/19)
(06/29)
(07/01)
(07/02)
(07/03)
(07/04)
(07/08)
(07/09)