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白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
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Tue 29 , 10:26:05
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Sat 07 , 23:37:43
2009/03
(サナダテ 戦国)

手を伸ばす。
手が触れる。
触れたと同時に、手は振り払われた。


「…ひどいでござる」
恨めしそうに二つ年上の情人を見やる幸村にくつりと笑って今度は政宗が幸村に手を伸ばした。
髪に触れ、なだめるように幾度か梳いてから手を下ろして頬に触れ、唇をなぞる。政宗の男にしては細く白く、けれども刀を操るために節くれだって決して女のものとは見紛いようのない手はすーっと顎のラインをたどるように降りていき、のど仏を撫で、首筋に沿わされたところでようやく止まった。
「なあ、真田幸村」
閨に二人で篭った時のような甘い声で政宗が二つ年下の情人を呼ぶ。
「この手がいつか…」
指に力が込められ、幸村は息がつまり苦しそうにうめきながらも政宗をひたと見据る。その表情はどこか陶酔しているようにも見え、政宗もうっとりと微笑んだ。
「あんたの命を奪う」
手にこめられた力はそのままに、政宗が秀麗な面を近づけて幸村の唇にそっと触れるだけの口付けを贈った。
「それとも…」
手を首にかけたまま力を抜き、もう一方の手で幸村の手を探り、指を絡めた。
「この手が、俺の命を奪うのが先か?」

急に入ってきた酸素に軽く咳き込みながら、幸村が政宗に握られたのと逆の手をもう一度伸ばす。
今度は振り払われることなく手は政宗にたどり着いた。
政宗がそうしているように幸村も政宗の首にそっと手をかける。
「某がそなたの命を奪い、そなたが某の命を奪う」
目を合わせたままゆっくりと顔を近づける。
政宗も目を閉じることなく、じっと幸村の顔が近づくのを見ていた。
「その日が、楽しみでござる」
言うと同時に視線を絡めたまま口付け、押し倒した。


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Thu 08 , 02:48:23
2009/01
すきだから、そばにいたい。
すきだけど、そばにいられない。

さびしいね。
かなしいね。

こんなじだいじゃなかったら、いっしょにいることができるのかな。





「アホか、おまえ」
「ひどいでござるぅ」
もう一発くらい蹴りをいれてやろうかと思ったが、幸村があまりにも情けないツラをさらしているので、やめておいた。
「Ah-…」
捨てられた子犬のような目で見ないでほしい。今すぐ抱きしめて頭をぐりぐりしたくなるじゃねぇか。

ため息を、ひとつ。
「幸村」
ちょいちょいと手招きすると、ぱぁっと笑顔になって駆け寄ってきた。
ああ、こいつの頭に耳が、ケツには千切れんばかりに振られる尻尾が見えるぜ。
「いいか、一度しか言わねえからよくきけよ」


「確かに、こんな時代じゃなかったら俺たちは国だとか敵とか味方とか考えずにずっと一緒にいられたかもしれない。もしかしたら、命を取り合わずに一緒に生きることのできる幸せな世界もあるのかもしれない。けどな」

今でも鮮明に思い出せる、一度しかない出会いの瞬間。瞬きすら惜しむほどに、目の前の赤に心を奪われた。戦場の血と泥にまみれて何よりも美しい鮮烈な赤に、すべてをもっていかれた。

「そんな世界だったら俺たちはあの心震えるような最高の一騎打ちができなかった。きっと、ともにいるのが当たり前だったら今の俺たちみたいな寸暇を惜しむような睦み合いがなかった。こんなにも深く心を、魂を、つなげることなんてできなかった」

戦のない世界なんて知らない。
そんな世界で俺やおまえが生きられるはずがない。
人を殺さない、刀を握らない、槍を握らない、そんなの俺じゃないしおまえじゃない。

「もしもの話なんかするんじゃねぇ。俺は、今、ここの、ここにいるあんたが…」


不意に抱きしめられ、言葉は最後までつむがれるまえに重ねられた唇に吸い込まれていった。

「…申し訳ございませぬ」
「…」
「そのようなつもりで言ったわけではございませぬが無神経な言でござった」
「…いや、あんたは悪くない。俺が…」
「しかし、政宗殿のおっしゃるとおりでござるな。某は戦なくしては生きられぬし、仮に戦のない世界で政宗殿と出会ったとして、間違いなく某は政宗殿を愛しますが、今の我等ほど深いつながりを得られるとはゆめ思いませぬ」
「…」
「お慕いしております、政宗殿。そなたが、誰よりも…」
いとおしい

耳元に吹き込むようにささやかれた言葉にすがるようにぎゅっと抱きつく腕に力をこめると同じように強く抱き返された。
さっきまでは子犬のようにcuteだったのに、気がつけば俺を抱きしめるこの腕は力強く、穏やかに笑う年下の情人はなぜかやたら大人びて見えて、己の心の幼稚さが恥ずかしくなった。



好きだから、そばにいたい。
好きだけど、そばにいられない。

そんなこと、わかっているから。

強く生きると決めたのだから、甘い夢物語をたとえ話にもしないでほしい。
弱いこの心が揺らぐから。
あるはずのない未来を、望んでしまうから。



「政宗殿、ともに生きましょう」
「…」
「いつか、互いがどちらかの命を奪うまで、精一杯、ともに生きましょう」
「…ああ」

最後の一呼吸まで、全力であんたを愛してやるよ。
Tue 06 , 01:02:57
2009/01
小十郎×政宗 現代


時々、幸せだと思う。





幼いころの付き合い

プラス

十歳の年の差

イコール

埋まらない、追いつけない、いつまでも子供扱いのジレンマ






小十郎に出会ったころのことはギリギリ覚えている。俺にとって10歳年上の小十郎は「頼りになる、何でもできるかっこいいお兄ちゃん」だった。
最初のころは「おにーちゃん」と呼んでいたが小十郎が「名前で呼べばいい」って言うから遠慮なく名前で呼ぶようになった。喜多姉によると、小十郎は下に兄弟がいないため、お兄ちゃんと呼ばれなれておらずどうにも照れて落ち着かなかったらしい。それを聞いて強面に似合わない純情なところが意外にかわいいと思った。

俺は小十郎が大好きで、友達と遊ぶよりも親に遊んでもらうよりも、小十郎と一緒にいることが好きだった。小十郎もなんだかんだいいながらも俺の相手をしてくれて、一緒にいないと落ち着かないくらい、一緒にいるのが当然だった。
それがとてもうれしかったのに。それだけで、満足できたらよかったのに。
恋なんて、気づかなければよかった。

「小十郎、Happy New Year!」
「ああ、あけましておめでとう、政宗」

同じコタツに入りながら新年を迎えた瞬間に笑いあう。喜多姉は旦那と一緒にいるし、俺の両親と小十郎の両親は温泉旅行に行っている。来年…いや、すでに今年か…受験生である俺は当然、留守番組。一人で正月もつまらないだろう、と小十郎も残ってくれた。二人きりの年越しも正月も初めてで、俺はうれしくてたまらない。

「もうちょっとたったら初詣、行くか」
「おう」
「その後、足を伸ばして初日の出を見に行こう」
「Ok!楽しみだぜ」

小十郎にとって俺はきっと手のかかる弟でしかないのだろう。それでも、小十郎は俺を大切にしてくれるし、そばにいてくれる。それだけで満足しろ、自分に何度も言い聞かせる、高望みが何になる。

「な、小十郎は何をお願いするんだ?」
「あー?」
「初詣、どうするんだ?」
「そうだな…」
「早く言えよ!」
小十郎の大きな手が俺の頭をなぜる。
「政宗が…」
「俺?」
優しい瞳が俺を捉える。
「大学に合格しますように」
「は?」
口元に、小さな笑み。

「健康でありますように」

「笑っていられますように」

「幸せでありますように」


「まだ、俺から離れていきませんように」


息が止まるかと思った。
顔が熱い。
馬鹿、とか俺のことばっかりじゃねえか、とか子ども扱いすんな、とかもごもご口の中でつぶやいて。
結局。
「離れてなんかいかねぇよ…」
小さくこぼして、大きな手に引き寄せられるままにたくましい肩に顔をうずめた。
「そうか」
そっけなく返された言葉。
だけど、小さいころから一緒にいるから小十郎の声に含まれたうれしそうな響きも気づいてしまって。

(この天然タラシ男め…!)

悔しくなりながらも、今年も来年も再来年も、飽きるほどにずっとずっと、小十郎のそばに入れたらいいのに、と心の中でつぶやいた。
Tue 30 , 00:55:05
2008/09
ひらひらと、目端に踊る紅。
無意識に伸ばした手は、捕まえようとしたのか浚われたかったのか。
くすぐるように手を撫でて、どこかへ行ってしまった赤。

そうだ、これは――






決して自分のものにならないとわかっているのに手を伸ばし続けるのは愚かなことだろうか。






武田信玄が死に、勝頼は討ち取られ、武田は潰えた。
真田幸村は自ら戦国の武将として名を上げ、信玄の志を継がんと天下とりに加わった。

本当は、少しだけ。
期待していた。
あの男が、自分の下に来てはくれないかと。



夢物語、わかっている。それでも、欲しかったのだ。あの男が。あの燃えそうに熱い男のことが。
惹かれるままに求めていた。欲していた。手に入らないことなどわかっていた。
それでも、諦め切れなかったのだ。

(交わることなどない、交わってはいけない、交わることなど望むことすら許されない)

譲れないものが、ある。
守りたいものが、ある。
政宗の夢をあの男はかなえることができない。
けれど、政宗の望みをかなえることができるのもあの男だけなのだ。
まったく厄介な存在だ。
逃げることすら許してくれないなんて。


(絡められて、囚われて、侵食される)


きっとあの男に自覚などないのだろうけれど。
Tue 22 , 09:07:37
2008/07
暑いです。ゆだります。腐ります。
というわけで、チカダテで時/をか/ける少/女ダブルパロ、もうちょっといってみようと思います。暑さに浮かれた頭で書くものなんて、ろくなものではないのです。
書いてる人だけが楽しいお馬鹿な妄想です。



scine4

「元親から、何も聞いていないの?」
勝手な憶測ばかりが飛び交う教室を飛び出して、グラウンド横の指定席で二人、並んで座った。
いつもならいるはずのもう一人がいない。左隣の風通しがいいことが、やたら悲しくて寂しかった。

「…」
無言で首を横に振ると、慶次が少しだけ眉をひそめた。
「俺…はともかく、政宗には一言くらい言ってくと思ってた」
「…なんで」
「あいつ、政宗のことが好きだったからね」
びくり、と身体が震えた。
付き合おう、と言われた何度も繰り返して否定した過去を思い出したからだ。
今だったら。
今だったら、決して否定しないのに。拒まないのに。あの手を、とるのに。
「…そんなこと、言ってたのか」
「言わないよ。でも、見てればわかる」
「俺は…知らなかった」
「政宗はそういうの苦手だからね。だから、元親も言えなかったんじゃないかな」
「…」
空はいやになるほど青くて、白い雲がきれいで、俺はたまらなくなって慶次をその場に残して走り出した。
「政宗っ!?」
驚き慌てた慶次の声が聞こえたけれど、聞こえないふりをしてただひたすらに走った。



scine5

誰もいない屋上。
青い空に少しだけ近づける場所。
3人で、時に2人きりで、授業をさぼってくだらない話をして一緒に昼寝をした場所。
「ぅ…」
近くにいすぎたから。
だから、わからなかった。
大切な存在。
「うぁあ…っ、…っく、ひぅ…っく」
なあ、どこにいるんだ。
帰ってこいよ。
俺はまだ、おまえのそばにいたいんだ。
おまえが、必要なんだ。

大声で泣いた。
青く澄んだ空に、俺の鳴き声は吸い込まれて。

誰にも、届かない。
Sat 19 , 23:50:09
2008/07
時/をか/ける少/女見ました。
そして、いつものごとく私の悪い癖…つまり、なんでもダテ受けにしてダブルパロをしたくなるという症状がまたしても現れました。

というわけで、チカダテでlet's妄想!
あ、時/をか/ける少/女のネタバレを含むかもしれませぬのでご注意あれ。
あ、ちなみにnot 女体です。




千昭→元親   真琴→政宗   (光隆→慶次)

舞台はどっかの港町でいいんじゃないかな、相手は元親だし。
で、元親が過去に戻ってでも見たかったのは、絵じゃなくて「船」と「青い海」でいいと思う。

Scine1

「どうしても、見たいモノがあったんだ」
二人だけの世界で、元親は遠くを見るようにそう言った。
今、元親と政宗以外のものはすべて時間が止まっている。
足を踏み出したままの女性。自転車にペダルをかけたままとまったままの少年。羽を広げたトンボ。羽ばたこうとした瞬間の鳥。
音もなく、色もない。
唯一色を持った存在―元親を、政宗は必死に追いかける。
「何だよ、それ」
「船が見たかった」
「…船?」
「ああ、知ってるだろ。もうすぐ、ここの港に寄港する帆船」
「…」
「俺の時代には、もう帆船なんてひとつも無い。絵や写真でしか見れないんだ。でも、俺はそいつが…帆船が、好きなんだ。そいつに乗って、海を…そうだ、俺は海が青いということも、絵や写真の中でしか知らなくて、そんなのありえないって思ってた…帆船で、海をわたって、いろんなところに行ってみたいと思ってた。それができなくても、一度でいいから、帆船を見たかったんだ」
「…海は、青くないのか?」
「ああ。海は、赤い」
「赤?」
「血と、毒ガスの色だ」
「…」
「なんで海が青いのか知ってるか」
「空の青を映すからだろ」
「ああ。…俺の時代の空は、青くなんて無い。青い空だって、俺はこの時代にくるまで見たことがなかった。そんなものはありえない、って思ってたぜ」
「…」
「初めて青い空を見て、白い雲を見て、青く光る波を見たとき、俺は感動した。だが、それ以上に…」
ふと真顔になった元親が俺をじっと見る。俺と対の眼帯の、たったひとつのまっすぐな瞳に居心地が悪くて身じろぐと、ふと微笑んで元親は空を見上げた。
「なんだよ」
「いや、やめておこう」
「…余計気になるだろ」
元親の腕をつかもうとするが、するりと逃げられた。
空ぶった手が悲しくて、もう一度手を伸ばそうとするがかわされる。
「俺、明日には姿を消すぜ」
「…なんだよ、それ」
「本当は、誰にも知られちゃいけなかったんだ」
「俺、誰にも言わねえよ」
「もっと早く帰るつもりだったんだけどよ…」
「絶対に、誰にも言わねえから!」
「おまえらと…おまえといるのが、あんまり楽しくってさ。気がついたら…もう、夏だ」
「元親!」
止まった人たちの間をするすると元親は進んでいく。
「一緒に、夏祭り行くって約束したじゃねぇか!」
「悪ぃ」
声のするほうに必死に顔を向けるけれど、見つけられない。
あのきれいな銀の髪が、見えない。
「ナイターも見に行くって!」
「申し訳ねぇ」
どこだ、どこに行った。
「元親!」
「じゃあな」
後ろで声がした。
「元親…チカ!」
急いで振り返るが、人ごみの向こうから右手がひらひらと手を振っている様子しか見えなかった。





Scine2
「あんたの時代にも、青い空と海と、あとあんたの好きな帆船が残ってるようにがんばるから」
「頼むわ」
「だから…」
何と言えばいいのかわからなかった。
俺は、元親がどれほど先の未来にいる人間なのかも知らないのだ。
それに、たかが俺一人に何ができるだろう?
何の意味も、無いかもしれない。
俺がどれほどがんばっても、何も変わらないかもしれない。
それでも、俺は、何かをしたかった。
この男のために。
「政宗」
元親が、ゆっくり立ち上がる。
制服についた草を手で払い、空を見上げる。
「…元親」
俺も同じように立ち上がり、それから同じように空を見上げた。
「この青い空が、好きだ」
「うん」
「あの青い海が、好きだ」
「うん」
「見れて、よかった」
「うん」
「本物の帆船は見れなかったけど」
「うん」
「でも、おまえらと一緒にたくさん野球してよ」
「うん」
「楽しかった」
「うん」
「もっと早く帰らなきゃいけなかったのに、気がつけば…もう、夏だ。あんまり楽しかったから、つい先延ばしにしちまった」
元親の視線がゆっくりと下がっていき、俺の顔でとまった。
俺も同じように、元親を見る。
「政宗」
「…なんだよ」
きれいな銀の髪。まっすぐなたった一つの瞳。吸い込まれそうだ。
「おまえ…」
「…」
「もっと、気をつけろよ」
「なんだよ、それ!」
「そそっかしいっつーか、危ねぇんだよ、おまえ」
「うるせぇ!」
「もっと周りを良く見ろ、注意力が足りねえぞ」
「最後だっつーのに、それかよ!」
「っんだよ、心配してやってるっつーのに」
「はいはい、わかったわかった。もう行けよ、自分の時代に帰っちまえ!」
俺は今、ちゃんと笑えているだろうか。
本当は、帰らないで欲しい。
自覚したばかりの想いはここにあって、今ならまだこの男に手が届いて、きっとこの男の中にも俺と同じ想いがある。
「ああ」
「さっさと、帰れ」
それでも、俺はこいつを引き止めてはいけない。
時代が、違うのだ。
ここは、こいつが本来いるべきところじゃない。
「ああ」
「…じゃあな」
別れの言葉。
できるだけそっけなく、いつもと同じように。
涙なんてみせたりしない。笑っててやるよ。
「じゃあな」
「もう行けよ」
別れの言葉を吐きながらも動こうとしない元親に焦れて、背中を押しやる。
「…」
そのまま、しぶしぶと歩き出した元親をほんの少しだけ見送って、すぐに踵を返して正反対の方向に歩き出す。

たまらなくなって、どうしても我慢できなくて、振り返った。
そこにはもう、元親はいない。
「…っく、…ふ、…ぅ、あ…」
歯を食いしばってもこぼれてくるこれはなんだ。
どれほどきつく目をつぶっても流れてくるこれはなんだ。
「ぅああぁ、ん…ひっく、…うあぁ、…、ん」
元親。
元親。
元親。
行かないで。
俺を一人にしないで。
そばにいて。
口に出せない我侭が頭の中で空回りする。
もう二度と会えないのか。
胸が張り裂けそうに悲しい。
いつのまに、こんなに好きになっていたんだ。
元親。


その瞬間。
ぎゅ、と。
背後から抱きしめられ、驚くまもなく体を反転させられた。
「え…」
気がつけば、強引に抱き寄せられて。
「政宗」
唇が、重なっていた。

何が起こっているのか理解する前にそれは離れ、きつく抱きしめられる。
「未来で、待ってるから」
「…っ、うん」
「…」
「すぐに、会いに行く」
「ああ」
「走って、行くから」
「ああ」
もう一度視線を絡めて、触れるだけの口付けをして。
元親は、俺を放して走っていった。

遠く遠く、今の俺には届かない未来に。




scine3
「なあ、慶次」
「んー?」
「俺、やりたいこと決まったぜ」
「マジかよ!」
「マジだ」
「なになに、教えてよ!」
「ヤダね!」
力いっぱい、ボールを投げる。
「ケチ!」
フルスイング。
ボールは天高く飛んでいく。
あいつの大好きな、青い空へ。
「ま、いつか、な」


生きようと思った。
もっと、前向きに。
前を向いて、生きようと思った。
元親が楽しかったと言ったように、俺にとっても3人で過ごす時間は、あいつがいた時間は、とても楽しかった。
楽しすぎて、きっと、俺は現実から目をそむけていた。

元親が自分の時代へ戻ったように、俺も現実の世界に戻らなければいけない。
慶次はあいかわらずそばにいるけれど、卒業してしまえば世界中を放浪しに行ってしまう。そして、元親はここにいない。
モラトリアムは、もう終わりを告げる。

やらなければいけないことはたくさんある。
俺は手始めに、新しく自分の世界を作るために古い世界を壊すことにした。
この夏休み、仙台の実家に戻って母親と正面から対決しようと思う。
正直なところを言えば逃げてしまいたいし、未だに俺はあの人が恐い。
でも、いつか来るかもしれない未来に、元親とちゃんと正面から向き合える自分でありたい。
元親のいる未来がいつのことなのか、俺は知らない。
もしかしたら、それは10年後であるのかもしれないし、100年後なのかもしれない。
もう一度出会った時、俺は80歳くらいの爺さんかもしれない。もしかしたら、会えないまま死んでしまうかもしれない。
それでも。
俺は、元親の待つ未来に会いたいから。
いつ死んでもいい、なんてもう思わない。
ちゃんと、今を生きる。
あいつの待つ、未来に向かって。
Fri 11 , 00:17:06
2008/07
(♀伊達ですのでご注意を)








「真田幸村!いざ、尋常に勝負!!」


袴姿で竹刀を手にきらきらと目を輝かせて迫ってくる少女―伊達政宗を見て、幸村は泣きたくなった。

「ま、政宗殿、某少々体調が…」
「嘘つくな!さっきまで慶次相手に打ち合ってたじゃねえか!」
「いや、それは…」
「俺だっておまえとやりたいのに、どうして慶次はよくて俺はだめなんだよ!」

すねたように唇を尖らせながら幸村を上目遣い(身長差があるため自然とそうなる)でにらみつける政宗に顔を赤くしながらしどろもどろに幸村は言い訳をする。

「しかし、今は休憩時間中で…」
「休憩時間だから誘ってるんだよ!」
男子剣道部と女子剣道部は仲がいいものの、流石に練習メニューは別のため、幸村と政宗は同じ武道場内にいても練習中に打ち合うことはない。
「休憩時間にはちゃんと身体を休めなければ」
「でも、…休憩時間しかできねぇじゃん。っつーか、俺はあんたとやりたいのに、あんたは俺とやりたくねえのかよ?」
「政宗殿…」

幸村にも、政宗にも、前世の記憶がある。
前世の最期の戦いで、勝ったのは幸村だった。鳥になりたい、と言い残して微笑みながら逝ってしまった人に、幸村は泣いた。政宗は男で、敵国の大将だったけれど、ずっと、想っていたのだ。この美しい人がいとしかった。破天荒なくせに繊細でやさしいこの人が、好きだった。
ともに、生きてゆきたかったのだ。
隣で笑いあう未来が欲しかった。

だから、現世でもう一度めぐり合えたとき、信じてもいない神に心底感謝したのだ。その上、生まれ変わった政宗は女になっていた。たとえ男であろうとも政宗をいとおしく想う気持ちは変わらないが、戦乱の世とは違い、現代では同性愛というのは受け入れ難い社会だ。障害など少ないに越したことはない。
かくして、男同士という壁も敵同士という壁もなく、対等な立場で向き合う権利を幸村は手に入れたのだ。


しかし、最大の障害はそういったものではなかった。


『真田幸村、久しぶりだな』
『政宗殿…!お会いしとうござった…』
『Ha!俺も会いたかったぜ?真田ァ』
『政宗殿…』
『いざ、勝負!今度こそ、負けねえからな!!』

満面の笑みで宣戦布告をされてしまった。


それからというもの、顔をあわせるたびに政宗は勝負しろ、と迫ってくる。幸村にしてみればたまったものじゃない。
もう二度と傷つけないと誓ったのだ。
泣きながら抱きしめた体はだんだん冷たくなっていって、還らぬぬくもりにどれほど悔いたことか。
いや、それでも戦乱の御世ではないこの時代なら、傷つけることなく戦うこともできるかもしれない。
しかし、今の政宗は女なのだ。
抱きしめれば折れてしまいそうなほどに細い肢体。手首なんて、つかんでも指があまるほどだ。身長だって、ほとんど同じだったあのころとは違い頭ひとつ分近く幸村のほうが高い。
生まれ変わっても流石というべきか、剣術の腕は女子部でもトップではあるが、幸村とて男子部ではトップ。男女の力の差や体格差を考えてみれば、どう考えても政宗が勝てるわけがないのだ。
けれども、政宗はかつての好敵手が目の前にいる、という事実に興奮して今の己が女であるということをすっかり失念して勝負をしろと目を輝かせて迫ってくるのだ。
まさか、幸村がそんな政宗を見て抱きしめてしまいたいなどと考えているなど、夢にも思わないだろう。

そう、そうなのだ。
幸村は、政宗に“異性”として意識されていないのだ。
泣きたい現実である。



「男子、休憩終わりだ!」
「女子も、休憩終わりー」

武道場に響く男子、女子それぞれの部長の声に幸村は安堵のため息をつき、政宗は悔しそうに舌打ちをする。

「今度こそ、俺の相手しろよ!」
「はは…。政宗殿、今日の帰りはどうしますか?」
「んー、マック行きたい」
「わかりました。ではまた後ほど」
「ん」

二人は一緒に帰っているのだ。
帰りが遅くなるため一人では危ない、とかなんとか理由をつけて。
ちなみに、朝も一緒に朝練にきている。
最寄り駅が近くて本当に良かった、と思う。
政宗がおとなしく幸村と一緒に登下校する理由のひとつとして、一人で電車に乗っているとよく痴漢にあうから、というものがある。政宗ならば痴漢を撃退できなくもないだろうが、恐いものは恐いだろう。幸村が一緒にいれば痴漢も手を出してこないし、ほかの男どもへのいい牽制にもなる。


(いつになったらわかってくださるのであろうか…)

後半の練習メニューをこなしながらこっそり政宗を目で追い、幸村ははぁと深いため息をつくのであった。
Tue 01 , 23:15:23
2008/07
こじゅまさで、こんなパラレルが書きたい↓




系図を紐解けば、「小十郎」という名を与えられたものが幾人かいることに気がつく。
その名を与えられたものは必ず家を継ぎ、そして彼が当主である間は絶対にこの片倉家がつぶれることはありえない。
なぜなら、“小十郎”というのは青い竜神に祝福を受けたものの名だからだ。




「おお、無事に生まれたか。どれどれ…元気なおのこだ。早速、竜神様に見てもらいにゆこうではないか」

案じていたよりも安らかなお産。
疲れた顔をしながらも幸福そうに微笑む妻の無事を喜び、あらためて湧き上がる妻へのいとおしさと生まれたばかりの小さな命を抱きしめて、影長は笑った。妻の汗にぬれた額をぬぐって、優しくささやく。
「私がこの子を竜神様の御前へお連れするから、おまえは、少し休んでいなさい」
「はい、あなた」
お産という大役を終えた妻がそっと瞳を閉じ、すぐに寝入ったのを見届けてから、小さくてふにゃふにゃした生まれたばかりの息子を恐る恐る抱き上げた。
「さあ、行こうか」


代々続く神職の家系である片倉家は、社のさらに奥にあるもうひとつの鳥居をくぐった先の神域に生まれた子を連れて行かなければならない。
そこで、彼らが祀る竜神に子を見てもらうのだ。

「竜神様」
驚くほどに澄んだ泉の前でそっと名を呼ぶと、いつ現れたのか、非常に美しい青年が水の上に立っていた。
「Hey、待ちくたびれたぜ、影長。…そいつが、新しく生まれたおまえの子か?」
「はい。抱いてやってくださりませ」
無造作に、青年が水の上を歩いてこちらにやってくる。彼の何気ないしぐさにさえ息を呑むほどの優雅さがあった。
伸ばされた腕に、そっと嬰児を差し出せば、優しく抱き取られた。

「Oh…」
腕に嬰児を抱きしめた瞬間、感極まったように竜神はつぶやき、そして、見たこともないほどに美しく幸福そうな笑みを溢れさせた。
「Long time no see…待ちわびたぜ、小十郎」
おまえに、限りのない祝福を。
ささやいて、額に口付けた竜神の蕩けた微笑の美しさは筆舌に尽くしがたいものがあった。
「影長、こいつの名は小十郎だ」
告げられた名は、片倉家においてもっとも尊ばれるもの。
竜神の祝福と愛を一身に受ける存在。
一族に繁栄をもたらすもの。
「小十郎、ですか」
「ああ。間違いない。俺が小十郎を間違えるはずがねえ!」






こんな感じで始まる、竜神・政宗と人の子・小十郎のお話。
神様だからずっとずっと、長い時間を生き続ける政宗。数え切れないほどの出会いと別れ。
遠い昔に小十郎と政宗は出会い、愛し合い、けれども人の子である小十郎は死んでしまった。
長い時を経て、小十郎は生まれ変わる。新たな生を受けた小十郎は、政宗のことを覚えてはいないけれど。それでも、その魂は間違いなく小十郎のもの。政宗が、唯一愛した男のもの。
覚えていなくてもかまわない。
ただ、そばにいさせて欲しい。
生きていて欲しい。
それだけで、俺は、息が詰まるほどに幸福なのだから。

政宗はこれ以上ないほどに小十郎を愛しいつくしむ。
けれど、小十郎は政宗が愛しているのは自分ではない「小十郎」なのだ、自分は彼の愛した「小十郎」の身代わりなのだ、と思い込み、いらいらする。
たとえ、政宗の言うように同じ魂を持っていたとしても俺は俺でしかないし、今よりもっと前の自分なんて、何の関係もない、それは俺ではないのだ、と否定する。
その裏にあるのは狂おしいまでの政宗への恋情と独占欲。
幸福そうな顔で、俺ではない俺の話をするあんたが憎い。
俺を好きだというのなら、今の俺だけを見ればいいのに!

少年期の小十郎さんは、そんな感じでもやもやしてます。
あ、ちなみに丁寧語で話したりなんかはしません。


で、政宗様は当然のように隻眼なのです。
彼は、実は、昔は人だったのです。
人だったころの記憶はほとんど残っていないけれど、右目を失ったのは彼がまだ人であったころ。
はっきりと覚えているのは、神になったばかりのまだ力が安定せず弱弱しいころに妖に襲われていた自分を助けてくれた男。
名前は、片倉小十郎。
初めて政宗を愛し守り、あるがままに受け入れてくれた人。
誰よりも大切な、いとしい人。



「死ぬな、小十郎…死なないで…」
「政宗様…」
そっと、力なく伸ばされた手が涙にぬれる政宗の頬に触れる。その手の頼りない力のなさにますます涙が溢れる。
「申し訳ありません。小十郎は…もう、逝かねばならないのです。ああ、そのような顔をしないでください。小十郎は、幸福でした。あなたに出会えて、本当に幸福だったのです。愛しています、政宗様。この生に、なんの悔いもありませぬ。ただ…残していく、あなたのことが心配だ」
じゃあ、死なないで。子どものように駄々をこねると困ったように笑いながら、小十郎は、ひとつ、最期の誓いをくれた。

「何度でも、きっと、生まれ変わってあなたのそばに還ります。どれほどの時間がかかっても、小十郎はきっとあなたを一人にはしません。けれど、生まれ変わった私はあなたを忘れるかもしれません。ですから、政宗様」
生まれ変わった小十郎を、もう一度、見つけてくださいますか?
Sun 01 , 23:49:40
2008/06
泣き腫らした真っ赤な目からは、まだまだとまることなく涙がこぼれていた。
「…すまないことをした」
「いいえ、お父上様のせいではございませぬ。あの方が、あの方に、非はございます」
「…」

松平忠輝

娘婿であったその人は、強すぎる気が災いし、さまざまな事柄の結果として大御所の不況を買い、改易された。
そして、その妻であった五郎八姫、つまり俺の息女は奥州へとひとり戻された。


互いにどこをどう気に入ったのか、非常にむつまじい夫婦であり、あの豪胆な気性の忠輝殿が姫にだけはこの上なく優しく甘かったらしい。
父親として、娘が幸福な夫婦生活を送っていることはこの上ない喜びであり、政略結婚の道具として嫁がせた罪悪感もわずかには薄れるものであった。
だからこそ、この結末が苦しくつらい。

「お父上様は、あの方のために、十分ずぎるほどに手を尽くしてくださいました。この上、何を求めることがございましょう。改易だけで済み、命が助かったのもお父上様のおかげと存じます」

涙を流しながら、それでもまっすぐに俺を見返してそう告げる姿は、我が娘ながら強く美しく、それをうらやましく思った。

「ですから、こうしてわたくしが泣いておりますのは、わたくしの我侭に過ぎないのです。生も死もあの方のそばで、だなどと、そんなことはわたくしの我侭に過ぎないのです」
「…そうか」
「はい。…ですが、もしも」
「…」
「もしも、ひとつだけわたくしの我侭を聞いていただけると言うのであるのなら」

いつの間に、このような強い瞳を覚えたのであろうか。
嫁いでいったときには、まだ幼さばかりが目に付く少女であったというのに。

「もう二度と、誰をも夫と呼びたくはございませぬ。わたくしの良人は、生涯、忠輝様お一人にございます」




目をそらしたのは、俺のほうだった。
姫のひたむきな姿は、遠い昔に見た誰かの瞳によく似ていた。
「…そんなに、恋うたか、あの男を」
「はい、お慕い申し上げております。わたくしの瞳には、あの方以外の誰もうつりませぬ」



『政宗殿、お慕い申し上げております。そなたを…そなただけを、某は、何があろうとも変わることなく愛し続けましょう』



強い瞳、一途な思い。
遠い昔に愛した男の姿が脳裏に過ぎった。
記憶の彼方に追いやったはずの感情がよみがえり、その鮮やかさに驚きあきれる。

(shit!…あれから、何年経った?まだ、忘れられないのかよ…)

男同士で、敵同士で、未来なんてない関係に終止符を打ったのは俺でもあいつでもなく、せまりくる戦だった。

正直なことを言えば、今でもほれている。
会いたい、触れたい、そばにいたい。
想いは絶えることなくまだここにあって、妻がいて、娘も息子もいて、会わなくなってから何年も経って、あの男は戦に死んで、それでも俺はそれを捨てることがどうしてもできなかった。

だから、姫の瞳の強さにあの男の姿を見たように、その思いの一途さにかつての俺を重ねずにはいられなかった。


「五郎八」
「はい」
「その願いをきいてやろう。それが…」
勝手な都合で振り回したせめてもの償いだ。

声に出さなかった言葉までちゃんと拾って、姫はそっと微笑んだ。

「はい」
ありがとうござります、お父上様。

美しい、微笑だった。
Tue 20 , 09:58:12
2008/05
もしもそらをとべたなら。

あなたはおおぞらにこがれてこがれて、それでもあいするものたちをすてることなどできす、こころをそらにあずけたまま、このちじょうでいきてゆくのでしょう。
くるしみながら、それでもほほえんでそっとてをさしのべてすべてをまもるのでしょう。

きっと、それがしとあいたいしていてもあなたのこころはけっしてそれがしへはむかないでしょう。

だから、それがしはおもうのです。
あなたにつばさがなくてよかった、と。

あなたを、からだばかりではなくこのうでのなかにとじこめることができて、ほんとうによかったと。

それがしは、おもうのです。
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